星屑
私は幼い頃から病気がちな体質で、物心着いた時から入退院を繰り返していた。ただでさえそんな状態で更に喘息、偏頭痛、日光アレルギーに蕁麻疹だとか。体調不良の原因なら自分でも覚えていないほど抱えている。
加えて私はABO式血液型のどれにも当てはまらない特殊な血液、というデメリットしか存在しないような体質らしく、貧血を起こしても献血に頼ることは出来ないし両親にはただひたすら「手術が必要になる病にはかからないでくれ」と祈られた。
そんな生活でまともな友達などできるはずもなく私の話し相手は専らナースや同じ病院に入院するおじいちゃんおばあちゃんで、気が付けば歳上としかまともにコミュニケーションを取ることができない頭の悪い女子高生という私が出来上がっていた。
女子高生というのは年齢の話で実際に高校には通っていないので事実を言えばただの頭の悪いニートになってしまうのだが、これはあまりにも響きが悪いので辞めておこう。
そんなこんなで人生の中心が病院というなんとも嬉しくない私は、定期検診の時間が来ても屋上で1人空を眺めている。飛彩先生は今頃イライラがMAXだろう。
数ヶ月前、飛び級で海外の大学を卒業し若くして医師免許を取得した"失敗しない天才外科医"こと鏡飛彩先生は私のいた病院に赴任されて早々担当医(主治医?)となった。
なんでも院長の息子らしい。別にそれで決まったわけではないだろうし私の担当医になることに大した価値はないだろうけど、いいのかそれで。
定期検診で調べるのは主に血液のとこで、日々の体調だとか免疫力だなんてことも一応調べてはいるらしい。血液のことだから外科医じゃなくて血液内科じゃないの?とも思ったのだが、どうやら飛彩先生が担当している新型のウイルス(確かバグなんとかウイルスみたいな名前だった)と私の血液に関連性が0だとは言いきれない、だとかなんとかで飛彩先生が担当することになったそうだ。
新型のウイルスについても初めて顔を合わせた時に長々と説明されたのだが天才の説明を義務教育もまともに受けていない私が理解できるはずもなく、話の途中で眠ってしまった。余談だが私の特技は一切姿勢を崩すことなく何処でも眠れることだ。あの時は飛彩先生に酷く怒られた。いや、怒られたと言うよりも呆れられたの方が正しいのか?
なんてことを考えていると屋上の扉がやや乱暴に開かれてナースの仮野明日那ちゃんが駆け込んできた。
「あー!許ちゃん発見!定期検診の時間だよ!」
「明日那ちゃん、私のこと見つけるの早くなった〜」
ぷりぷりと可愛らしく怒る明日那ちゃんにはぐらかすように返事をして駆け寄ると飛彩怒ってたよと予想通りの言葉をくれた。他人事のように頭の血管切れそう、と言うと反省してよ!とまた怒られた。
あはは、多分無理。もうすっかり見なれた診察室の扉を開けるとシュークリームを頬張る仏頂面の飛彩先生がいた。
「飛彩先生リスっぽ〜い!」
「また遅刻だぞ、新渕許。全く....この調子なら無事社会に出たとしても生きていけないな」
「やだなぁ飛彩せんせー私は社会に出れないって。だって大人にならないもの」
冗談半分のつもりでそんなことを口にすると飛彩先生は酷く顔をゆがめて私を睨んだ。飛彩先生はたとえ冗談でも命を無駄にするような発言が嫌いだ。そりゃあ医者だから当然なのかもしれないけれど、多分それだけじゃない。
断片的なことだけしか把握していないが前に院長に聞いたことがある。例の新型のウイルスの被害に遭ったという飛彩先生の婚約者の話を。
「(私はその人とは違うんだけどなぁ....)」
飛彩先生と、目が合わない。
その後の検査中はずっと無言で淡々と進んだ。もう何をするのかもわかりきっているし、私も先生もお互いに終始気まずいような、微妙な顔をしていた。
世間一般ではこれを"恋"と言うのだろうか。と、時々考える。
飛彩先生に、もう少し私を見てほしい、誰かに重ねず私本人を、そばに居てくれると少しだけ安心するからずっと近くにいて欲しい。
なにがあっても幸せになって欲しいと、想う。
私はこれを恋だとは思っていないのだけれど、前に遠回しに明日那ちゃんに相談すると「許ちゃんはその人のことが好きなんだね」と言われた。なるほど、例えばこの感情になんでもいいから名前をつけたいと思えば私のこの感情は"恋"となるのかもしれない。
でも私は、飛彩先生の幸せに私は必要ないとも思っているから、それがますます分からなくなるのだ。飛彩先生を本当の意味で幸せに出来るのはきっと例の婚約者さんで、私はそれを悔しいとも辛いとも思わないし、それが1番正しいのだと受け入れている。
もしかすると、飛彩先生に対する私のこの感情は子供の駄々のようなものなのかも。そんな結論にいたるころ、なれない手つきで操作するゲームの画面では勇者が悲しそうな顔でGAME OVERと告げていた。