「おはようございます」
 いつの間にか眠っていたようで、夜通しいることになってしまった会議室の扉の音によって意識を浮上させられる。
「神ヶ原さん、ちゃんとベッドで寝てくださいと前から言ってますよね?」
「あはははは……」
「研究については口を出せませんけど、事務系なら引き受けられることも多いと思います。だから仮眠室に今すぐ行ってくださいよ」
「了解です」
 そうやってお言葉に甘えて立ち上がった時だった。
「ッシュ? 指揮官サン、首に赤い痕があるッシュ」
「へ」
 ピシリと一瞬で凍った空気。
「今年の蚊は早いッシュね」
「あ、いや、その! これはですね!」
「バ、バケッシュ!」
「おい、忘れモン」
 事の大きさを知らない機械一機に、ダラダラと冷や汗をかいて慌てる大人二名。そんな異様な光景が繰り広げられている会議室に不機嫌な声が飛び込んでくる。
 声の主は卒業してから久々に見かけた武居くん。同性の僕から見てもカッコよくなったなと惚けているのも束の間、彼が手に持っているものに目が釘付けになる。
 昨日指揮官さんに渡した紙封筒。
 それを忘れものとしてここに届けに来た武居くん。
 首から上を可哀想なくらい真っ赤に染めた指揮官さん。
 これらから考えられることはつまりそういうことで――。
「んだよ」
 もう言葉は必要なかった。
「どうして武居がそれを」
「バケッシュ、一緒に仮眠室行こうか!」
「ッシュ⁉ 衛⁉ 何をするッシュ⁉」
「武居くんもこれはもらっておくね!」
「お、おう」
「じゃ!」
 羽交い絞めにしたバケッシュを連れて部屋から大急ぎで出ていく。戦略的撤退は時間がものを言う。武居くんと二人きりにして指揮官さんには申し訳ないと思っているが、あの場に居座る勇気も度胸も生憎持ち合わせていない。
「武居くんか……」
 指揮官さんが誰かとお付き合いを始めたことは察していたけれど、武居くんだったとは。
 次に起きたとき、指揮官さんとまともに応対ができる自分が想像できなかった。