死に嗤え

 狐の隊長が死んだ。
 白系種アルバのくせに強くて、強かったくせに私たちを守って死んだ。
 馬鹿じゃないのって私たちは嗤ってやった。いつもヘラヘラしていて、白系種だから余計に嫌いだった。
「……そうだね」
 でもセオは嗤わなかった。
 隊長が死んでからちょっとだけ、そうほんのすこしだけ。セオは変わった気がする。どこが、って聞かれたら学のない私じゃ正確に言い表せないのだけれど、ひとつ大人になった気がする。最期は知覚同調パラレイドを繋がれなかったから何があったかなんて訊けなかったけど、後悔してるとも見えるその顔がとても遠くて、それが答えなのだと苦しく軋む胸を強く握り締めた。
 私は狐の隊長に嫉妬してる。だって狐の隊長はセオの傷になれたのだから。
 私が死んでもセオは覚えていてくれる。でもそれだけだ。死に際に出てきたとしても顔だけで、何を話したかとかは多分思い出してくれないだろう。思い出す余裕もないというのが実のところだろうが、要は比重の問題だ。心をもっとも多く割いたひとたちだけが最期に迎えに来てくれる。
 進んで傷になりたいわけじゃない。セオには笑っていてほしいから。でも少しくらい、心の片隅に住まわせてくれたっていいじゃないか。
 あなたの皮肉屋なところ、最初に会ったときはとても怖かった。でもそれと同じくらい救われたところがあった。対等に見てくれることがなかったこの人生で、その皮肉がちゃんと相手を見ていることの裏返しだって気づけたから。それがどんなに嬉しかったことか、セオはきっと知らない。
 狐の隊長。あなたのパーソナルマークをセオは自分のものにしたよ。あなたを絶対忘れないって言ってるみたいで、すごい羨ましい。
 キャノピがこじ開けられて、目の前に〈レギオン〉が現れる。スクリーン越しにしか見たことのないその白さは吐き気がするほど綺麗で、白系種アルバを彷彿とさせるから余計にムカついた。
 無機質な前脚が振り上げられる。負けた気分がするからとその時になったら目をそらさないで嗤ってやると決めていた。
 いつまでも呪われてるセオには言ってやらない。私があなたをどれだけ好きだったか。
 知らないまま私を忘れてね。

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Boy Meets Lady