「おはよう!」

元気のいい声で目を醒ます。どうやら寝ていたらしい。
昨日会ったシマのバンダナの男の子が目の前にいた。

「起きたね!じゃあこれ着て!」
「えっ、あの」
「あっこれ用意したのお頭なんだよ!」

起きたての回らない頭では状況が理解できない。怒涛の勢いで青い着物を押し付けられた。
男の子はニコニコしている。困惑していると扉の向こうで怒号が上がった。

「こら網問!!女の部屋に勝手に入るなよ!!!」
「わー!間切ごめん!怒らないで〜!という事でじゃあね!」

その声に網問と呼ばれた男の子は焦ったように立ち上がると部屋を出て行った。……なんだろう若さかな…勢いが凄い。
折角着物を頂いたというか押し付けられたというか、でもわざわざ用意してもらったものらしいので腕を通す。
どういうわけか身体中痣だらけだ…海岸で拾われたらしいし、漂流している時にぶつけたのもしれない。どうして漂流してたかわからないけど…。
それにしてもこの服、着物より帯が細いし着流しのように着ればいいのかな…多分小袖ってやつだと思うのだけれど…。四苦八苦しながら用意してもらった服を着る。





「おはようございます。着替えましたか?」

扉の向こうから、昨日の赤毛の人の声で呼びかけられた。

「は、はい」

この着方で正しいのか不安だけれど聞くこともできないのでそのまま扉を開ける。
そこには、赤毛の人と見たことない精悍な顔立ちの人がいた。

「…失礼。」

精悍な顔立ちの人はそういうと私の帯をサッと直した。
帯、おかしかったんだ…。

「…ありがとうございます。」
「いえ」


「…こちらへ」

赤毛の人の一声で、歩くように促される。
向かったのは昨日と同じ部屋。
まずお頭さんにお礼を言って、ここがどういうところか聞いて…それから…。頭の中でやる事を整理する。

「お頭、舳丸です。連れてきました。」

扉の向こうから昨日と同じで「おう」と気の良い声がして、扉が開いた。部屋の中央にお頭さんがいて、昨日とは違う人がお頭さんの後ろに2人控えていた。

「舳丸、東南風ご苦労だったな」
「へい」
「さて、本題だが…と、その前に座ってくれ」

座るように言われ、お頭さんの前に置かれていた座布団におずおずと座る。案内してくれた2人は入り口の近くに控えた。逃げ出さないように…とか…?薄々思っていたけれどここは私の知る現代日本ではなさそう。どこだと言われれば困ってしまうけれど、なんだか時代劇のような…そんな気がする。

「体調はどうだ?」
「大丈夫です…あの…先日は挨拶もできず…その、助けてくださってありがとうございます…」
「見つけたのは、そこの舳丸と重だけどな」

お頭さんはそう言って赤毛の人と後ろに控えていた1人を指差した。紹介された2人は軽く会釈をする。赤毛の人お頭にお礼を言えって言ってたけど助けてくれたのは自分じゃないですか…っ!

「それでだな…そうだな、まず名前を教えてくれないか?」
「なまえ…です」
「海に打ち上げられていたことは覚えてないと言っていたが、その前のことは?」
「すみません…わからないんです」
「どこに住んでいたとかはわかるか?」
「それも分からなくて…海が見えるところに住んでいたことは覚えているのですが…」
「そうか…」

家の外観もなんだか朧げにしか思い出せない。昨日ははっきりと覚えてたのに時間が経つごとに記憶がなくなってるような…そんな感覚だ。
けれど、こんな時代劇のようなところではなかったとは言い出せなくて口籠る。

「えっと…その、たぶん着の身着のままですし…なんのお礼もできなくて…すみません…」
「そんなに畏まらなくてもいい。…痣だらけだと医者から聞いたんだがそれについて心当たりはあるか?」
「…それが…全くなくて…」

痣は痛くはないし、着替えるまで気がつかなかったくらいだ。お頭さんは唸るように考える仕草をとる。

「うーん、行く当てもないんだよな?」
「はい…」
「じゃあうちで働くか?」
「えっ」「「はぁ!?!?」」

私より大きな声でお頭さんの後ろに控えていた2人が反応した。後ろにいる2人は声をあげないけれど驚いていたようだ。

「お頭何言ってるんですか!?」
「まだ全然怪しいですよ!?」
「じゃあ可哀想な捨て犬みたいな女子を見捨てろっていうのか?」
「えっいやそういうわけでは…」
「ていうか犬ってまだ引っ張ってたんですか…確かに捨て犬っぽいですけど」
「えっ猫じゃない?」
「犬だろ」

捨て犬って…。
お頭さんに反発した2人だけれどすぐに話が脱線した。本人を目の前に犬か猫かという口論が繰り広げられている。そのうち犬派か猫派かという話にまで発展しそうだ。

「舳丸、東南風、お前らはどう思う?」

お頭さんは苦笑いを浮かべて私の後ろにいる2人に聞いた。

「…そうですね、危険はないかと思いますが」
「むしろ男所帯に女子を置いて行くほうが危険かと」
「あ〜…そこはまぁなんとかなるだろ。なまえ、お前さんはどうだ?」
「置いていただけるなら…有難いです…けど」

そう言って反発組をちらりと見る。反対してる人がいるなら置いてもらえないかもしれない…。2人は未だに犬!猫!と言い争っている。

「ははは!2人のことなら気にするな!忍者だと思って警戒してるんだよ」
「に、忍者ですか?」

忍者…ニンジャ…NINJA…。アイエエエニンジャナンデ…?忍者なんて創作物の中でしか聞かないのに…。ここは本当にどこなんだろう…。

「まあ痣のこともあるし、しばらくは養生してくれ」


(20180322)
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