(立花視点)
部活の時間。
3年生はとっくに引退して2年と1年だけになったバレー部。小平太のお陰で辞めていったものも多いが、かなり強いチームだと思う。
部長になった私、立花仙蔵は他の奴らの基礎トレの合間に新しくトレーニングメニューを組み直している真っ最中なのだが……。
「木綿……絹ごし……朧ォ……」
兵助が変だ。
いや変なのは前からなのだが。
ブツブツと豆腐の名称を呟きながら、黙々と基礎トレをこなしている。正直に言ってかなり怖い。
先に基礎トレを終えた勘右衛門を呼び出して聞く。
「勘右衛門、アレはなんだ」
「えっアレですか……」
勘右衛門はうんざりした顔をして答える。
「もうすぐ進級してクラス替えがあるじゃないですか、なまえちゃんと同じクラスになるんだ!!って事で豆腐断ち中なんですよ……もうずっとあんな感じですよ」
大木なまえ。
たまに来る外部コーチの大木先生の姪。
何故か兵助は彼女を天使と呼び信仰している。彼女とは大木先生関連で何度か話した事はあるが普通の優しい良い子だ。
ただ、天使と呼び慕う要素があるかと聞かれればないと思う。そもそもどんなに徳を積んだ人間でも天使呼びは無理があるだろう、天使ってお前……。
それから部活中はずっと豆腐の名称を呟いていた。勘右衛門を始め1年のメンバーは総スルーだ。突っ込みすら入れない。多分部活の時間に至るまでに色々あったのだろうと察する。
「勘右衛門はどうして兵助がなまえを天使と呼んでるのか知っているのか?」
「あー……それはですね……」
***
それは、学校にも慣れ始めた5月の事だった。
移動教室から戻るついでにに八左ヱ門にちょっかいをかけに行こうとB組に寄った時、なまえちゃんと八左ヱ門が談笑をしていた。
「八〜! 勘ちゃん様と兵助が遊びに来てやったよ〜」
「あっ勘右衛門! ちょうど良いところに来たな!こいつ外部コーチの姪なんだってさ」
「竹谷くんこいつって酷いなぁちゃんと紹介してよ」
「悪い悪い」
そう言って八左ヱ門は俺たちになまえちゃんを紹介した。
その時、隣にいる兵助がなまえちゃんを見て手に持っている教科書やらペンケースやらを落とした。
あ、恋に落ちる音がしたわこれ。
へえ〜〜あの色恋に興味がなく豆腐一直線の兵助がねぇ〜そうかぁ〜〜〜これは応援しなきゃな〜〜〜と野次馬根性丸出しでその時は思ったのだけどそれは後の祭り。
「ちょ、どうした兵助!?」
「大丈夫?」
八左ヱ門は慌てながら、なまえちゃんは心配そうに兵助の落としたものを拾っていく。そして兵助は固まったままだ。
俺は八左ヱ門にアイコンタクトで兵助が恋をした、と伝える。八左ヱ門は察したらしくコクリと頷く。これから面白くなるぞ〜!
そんな俺らを他所に拾ったものを兵助に渡すなまえちゃん。
「あっこれお豆腐のキャラクターだよね」
「っ……! 知ってるのか!?」
「うん。可愛いよね〜、私も部屋にぬいぐるみがあるよ」
兵助のノートに貼ってあるお豆腐のキャラクターのシールを見て会話を広げる。もしかしてあの豆腐、JKには人気なのかな?
「久々知くんって真面目な優等生だって聞いてたけど、ノートは可愛いんだね」
「えっ、いや俺は豆腐が好きなだけで」
「だからこのキャラのシールつけてるの?面白いね」
「よかったらシールあげるけど……いっぱいあるし」
「いいの?」
普段見られない兵助の姿を俺と八左ヱ門はニヤニヤしながら観察する。
「いや〜春だね〜」
「そうだな〜青いなぁ〜」
予鈴が鳴ったので教室に戻る。
次は早めに座ってないとうるさい先生の英語の授業だ。
途中で真面目な顔をした兵助がボソリと言った。
「なぁ勘ちゃん……彼女はお豆腐の神様が俺のために遣わせてくれた天使なのかもしれない……」
「はぁ??????????」
その時俺は何言ってんだこいつと心の底から思った。
これは青い春でも恋でもなんでもない八左ヱ門助けて!
***
「つまりは一目惚れか?」
「ただの一目惚れだったら良かったんですけどね、行き過ぎた愛情表現の結果クソモンペ狂信者に成り果てましたからね……」
「クソモンペ狂信者……」
基礎トレを終えた兵助は八左ヱ門と共に小平太に捕まりアタックの餌食となっている。ご愁傷様。
「なまえはどう思ってるんだ?」
「あ〜……なまえちゃんは押しに弱いところがあるし何より優しいからそのままですよ」
「それはなんというか…」
「兵助の全力の愛を冗談だと思ってる節もありますし」
「冗談だと思わなければ対処できないのでは?」
「……そうですね」
勘右衛門は遠い目をして虚空を見つめた。
(20180323)
(修正20200412)
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