私はお昼ご飯を保健室で食べる。
決して友達がいないとかそういうわけではない。断じてない。
たまにお昼休みに不運に見舞われた善法寺先輩と食満先輩の手当てとかをしていたら、いつのまにか保健室の住人になっていたのだ。校医の新野先生は食堂でご飯を食べるので席を外している。
そして保健室でお昼を食べる人は他にもいる。久々知くんと尾浜くん、そして竹谷くんだ。不破くんと鉢屋くんは来たりこなかったりする。
ベットとは対角線上にある机で私は持参したお弁当を開ける。今日の卵焼きは自信作。竹谷くんは購買という名の戦場でパンを買ってから来る。お弁当だけでは足りないそうだ。
たしかA組は4時限目が体育だったから遅れて来るだろうなぁ……と思っていたらスパン!と勢いよく扉が開いた。
今日は誰も利用者がいないからいいけれど、ここは保健室。扉は静かに開けてほしい。
「なまえちゃん!兵助の豆腐断ちを止めて!」
扉を開けた犯人は尾浜くんだった。
尾浜くん曰く久々知くんはある願いの為、大好物であるお豆腐を断って願いが叶うように祈願しているらしく、その副作用が面倒臭いらしい。副作用ってなんだろう…気になるけど怖いから聞かない。
「私には止められないと思うけど……」
「いや、なまえちゃんしかいないんだ。兵助にお豆腐食べてって言ってくれるだけでいいから!」
「えっ、それで止められるとは思えないけど」
「平気!止められる!俺の心の平穏のためにお願い!」
尾浜くんは神様にお願いするように手を合わせて懇願してくる。
ぐう尾浜勘右衛門君あざとい。このあざとさと可愛さに何人かコロっとやられてるんだろうなぁ……。
「ところで久々知くんは?」
「先生に呼ばれてるから後から来るよ……」
げっそりとした表情を浮かべ遠い目をする尾浜くん。お疲れなんだな……カバンに一口チョコがあったはずだからあとで献上しようと思う。
竹谷くんがパンを買って来て、今日は珍しく不破くんと鉢屋くんも来た。不破くんはお弁当の他になぜか冷奴を持っている。
「食堂で豆腐もらって来たよ〜」
「でかした雷蔵!これで兵助が豆腐断ちを辞めれば俺たちに平穏が訪れる!」
「部活中うるさかったもんなぁ…」
尾浜くんはまさに感無量といった感じに、竹谷くんはもそもそと焼きそばパンを食べながらシミジミと言った。
久々知くんは部活でどんな風にうるかったんだろう…知りたいような知りたくないような…やっぱり知らない方がいいかもしれない。
お弁当の卵焼きを食べようと口を開けたところで久々知くんが保健室の扉を開けた。そしてその視線は不破くんが持って来た冷奴に釘付けになる。なんだか心なしか生気がない気がする。
「……冷奴」
久々知くんのそんな姿を見て尾浜くんが動いた。
「兵助!今ならなまえちゃんがあーんって冷奴食べさせてくれるよ!」
「えっ!?」
「なまえが!?」
尾浜くんの言葉にバッと顔を綻ばせる久々知くん。あれ?おかしいな背後に花が見えるんだけど……。
「いや、でも、おれは豆腐断ちをしてなまえと一緒のクラスになるんだ……!!!」
背後に咲いた可憐な花も一瞬にして枯れる。
「正直クラスなんかもう決まってるだろ、もうすぐ春休みだぞ」
「しっ!三郎、今の兵助に正論を言ったところで聞かないよ」
「途中で先生が入れ替えるかもしれないだろ!!!!」
「うわなんか面倒くさいぞこいつ」
鉢屋くんが正論を良い、それを不破君が咎める。それに対する久々知くんの返答に竹谷くんはドン引きしてる。
大川学園は1年と2年の間にだけクラス替えがある。っていうか豆腐断ちの理由は私と同じクラスになりたいってお願いだったんだ…。なんか、ちょっと恥ずかしいかも。
「ああもう豆腐断ち兵助面倒くさい…!いけっなまえちゃん!兵助の口に豆腐を入れるんだ〜!」
「えっ」
尾浜くんに箸と豆腐のお皿を押し付けられて久々知の目の前に連れて行かれる。
久々知くんは後ずさるも大好物のお豆腐の魅力には勝てないようでチラチラとこちらを見る。好物だもんね。えーい、こうなればヤケだ!そう思ってお豆腐を一口大に切って久々知くんの目の前に差し出す。
「久々知くん、あーん」
あっ、なんだろうこれ、羞恥心とかより雛鳥にご飯をあげる親鳥の気持ちに近いかもしれない。
「っ?!!なまえからのあーん……だと……」
「兵助ぇ、これを逃したらきっともうないぞ!」
「ぐっ!でもおれは絶対にやり遂げるんだ!なまえと同じクラスになるために!ぐうう、でも……!でもっ!」
悪魔の囁きもとい尾浜くんの囁きに久々知くんが揺らぐ。
外野は「なんで豆腐断ち辞めさせようとしてるんだ?賛成だけど」「勘右衛門ってば立花先輩に面倒臭いから豆腐断ちを辞めさせろって言われたらしいよ」「あ〜先輩命令か〜」などと盛り上がっている。
久々知くんにとってはかなり大きな葛藤らしく頭を抱えて悶え苦しみ出す。え、そんなに?尾浜くんはそんな久々知くんに耐えきれずとどめを刺した。
「食べないなら俺があーんしてもらうからね」
「なっ!勘ちゃんそれはダメなのだ!」
尾浜くんがその言葉を放つと同時に久々知くんは私の箸を持つ手を掴んで引き寄せお豆腐をパクリと食べた。
「!」
「「「あ、食べた」」」
「計 画 通 り」
「あああああぁぁぁ!!!」
上から私、外野3人、尾浜くん、絶叫する久々知くんだ。久々知くんは雪崩のように床に崩れ落ちた。
……あれこれもしかしてデジャヴ。
お豆腐は久々知くんが泣きながら美味しくいただきました。
(20180327)
戻る
ALICE+