気がついたら知らない場所にいた。
広々とした部屋に備え付けられた縦にも横にも大きなふかふかそうなベット。
清潔感漂うリネンに、シワのないシーツ。部屋の隅には青紫のキャリーケースが置いてある。
つまりここは何処かの私には手の届かない高級なホテルのようだ。そして誰かの部屋。
高級ホテルなのは分かったけれど、どうしてここにいるのだろう。
まさか、誘拐!?
いや、でも、私を誘拐したところで何もないし……。
そういえば、前に遊星が誘拐されてアキちゃんが助けに行ったなぁ。アキちゃんって意外と男前だよね。
閑話休題。
ここは何処かなんてわからないし、考えていても仕方がない。どうやら人はいないみたいだし、ここから出よう。
そう思ってドアノブに手を掛けたら、手が透けて通り抜けた。
「……っ!?!?」
思わず叫びそうになった声を寸でのところで抑える。
えっ、なにこれそういうこと??手が通り抜けるなんてまるで幽霊みたいな……もしかして、私死んじゃったの……??死んだような記憶は全くないんだけど。それに足はある。
ということは、
「夢?」
ほっぺを抓る。痛くない。
痛くないどころか触った感覚がないのだけど。
扉の前でうんうんと唸っていたら、ガチャリとドアが開いた。
ドアの先にいたのは、プレミアイベントにいたサングラスのDホイーラー。
「…………。」
「…………。」
無言で見つめ合うこと数秒。
バタンと扉が閉められ数秒後、遠慮がちにもう一度ドアが開いた。
「……泥棒?」
「違いますっ!あのっ私気がついたらここにいて……」
「流石にもっと良い言い訳があるだろう」
「言い訳じゃない!」
「兎に角不法侵入者は治安維持局に引き渡して……」
私の腕を掴もうとした手が空を切る。
どうやら本当に私は透けているらしい。
「掴めない?……もしかして幽霊?」
「……違う…と思います…っていうかそう思いたい」
サングラスの向こうから怪訝な視線を感じる。
なんだかこの人、プレミアイベントの時と雰囲気が違う気がする……。
男性は少し考える素振りを取ると部屋を出て行った。
何?なんなの?どうなってるの??
しかし、またすぐに別の男性を引き連れて戻ってきた。
stuffと書いてある帽子を被っている男性は突然連れこられたらしく困惑した顔をしている。
「誰もいませんけど……見間違いじゃないです??」
「今もここに……いや…僕の勘違いだったかもしれない、すまない」
「ジョニーさん最近試合に出ずっぱりだから疲れてるんですよ」
ゆっくり休んでください。そう言ってstuff帽子の人は部屋を出て行った。
パタンと扉が閉じ、男と視線を交わす。
「ジョニーさん疲れてるんですよ?」
「そう思いたい……どうやら君は僕にしか見えないみたいだ」
ニヤリと笑いながらstuff帽子の人の言葉を繰り返す。
困惑するサングラスもといジョニーさんを見ていると、なんだか余裕が出てきた。パニックになったり怯えてる人を見ると逆に冷静になれるよね。
「……それで、君は一体誰なんだい?」
「誰って言われても、元サテライト育ちのなまえとしか…」
「……サテライト?ネオドミノシティの?」
「そうよ、悪い?」
「ネオドミノシティにサテライトがあったのは大体200年前だったと思うけれど?」
「……は?200年前?」
「君は200年前の人間なのかい?」
「わからない、けど……でも私はサテライトに住んでたのよ」
……200年後の世界って一体どういうこと?
今度は私が狼狽える番だった。気がついたら霊体になって200年後とかどんな夢よ。
ううん、夢だからなんでもありなんだけど…でもこんなリアルな夢……。
「……ねえ、ジョニーさんは何してる人なの?」
「僕?僕はDホイーラーだよ。昨日も大会で優勝したし」
「優勝?あなたすごいのね!」
「チームのみんなのおかげさ。……それにしても幽霊と会話するなんて、夢でも見てるみたいだ」
「それはこっちにセリフ!気がついたら霊体になって200年後よ?信じられない!」
2人してクスクス笑った。
ジョニーさんは最初こそ狼狽えていたが、現実を受け入れたみたいだ。落ち着くとどうでもいい事が気になるみたいで――…きな!なまえ!――私はジョニーさんのサングラスの向こう側が気になって――……朝だよ!!いい加……!!――それに、プレミアイベントにいた彼は
「いつまで寝てるんだい!?なまえ!!」
マーサの声と共に布団を剥がされ床へ落下した。
「痛っ!……マーサァ…起こすならもっと優しく……」
「はいはい、朝ごはん作るの手伝っておくれよ」
「……はーい」
床に殴打した頭をさすりながら、急いで着替えてマーサを追いかける。
「それにしても寝坊するなんて珍しいじゃないか、具合でも悪いのかい?」
「そう思うならあの起こし方はしないでよ」
「悪かったね」
フライパンを熱してベーコンと目玉焼きを焼く。
ジュウジュウと良い音と良い香りが漂ってお腹がすいてくる。子供達もこの匂いに釣られて起きてくるだろう。
「それで話を戻すのだけど調子でも悪いのかい?」
「ううん、調子は悪くないんだけど、夢を……あれ?」
「どうしたんだい?」
「夢を見てたみたいなんだけど……うーん、忘れちゃった」
おはよー!と元気な声がして、子供達が起きてくる。
ここからは時間との戦いであまりの忙しさに夢を見たことすら抜け落ちてしまった。
(20180430)
戻る
ALICE+