「時計の管理ですか?」
お頭さんが目の前にごとりと少し大きな置き時計を置く。
文字盤はローマ数字で書かれており、4と8の上に穴が空いている。
振り子が付いていてカチコチと音を軽快な音を奏でていた。
「おう、南蛮の時計なんだがうちにはガサツな奴が多くてな。こういう繊細なものはすぐ壊しちまう」
南蛮の要人を護衛した時に頂いたものらしいが、1日に1度ゼンマイを巻かなければならないらしい。
お頭さんは鍵のような形のネジを取り出して私の前に置いた。
「今は東南風を中心に水夫の若いもんが管理してるんだが、船の整備とは勝手が違うらしくてなぁ……と言うわけでなまえにやってもらおうと思ってな!」
「は、はい」
「多分この時計について一番詳しいのは東南風だから、管理の仕方は東南風に聞いてくれ」
そう言って浜辺で船を点検している水夫の人たちの前に連れていって貰うためにお頭さんと外を歩く。
あまり1人で水軍館から出ないように言われているので、迷子にならないようにお頭さんの後ろをしっかりとついて行く。
「そういえば、義丸に着物を貰ったんだってなぁ」
「はい、でも私なんかがこうしてお世話になってるだけでもありがたいのに、着物まで頂いて良かったんでしょうか?」
「あいつも好きでやってんだから気にするな」
お頭さんはニカッと歯を見せて笑うと私の頭をグリグリと撫でる。
頭を撫でる角張った大きな手に父親の影を見た。
私の家族はどんな人なんだろう、そもそも家族がいたのかな……?
痛くない筈の痣がズキリと痛んだ。
「あっ!お頭!!なまえ!!」
船の整備場に着くと網問くんがすぐに気がついてこちらに向かって手を振ってくれた。
それに続いて、他の人たちもこちらを見る。
一斉にこちらを向かれるのは迫力がすごい……思わずお頭さんの後ろに隠れてしまった。
「東南風〜!ちょっといいか〜??」
「お頭、どうされたんですか?」
東南風くんは騒つく他の人達に作業に戻るように言ってこちらに来る。
その時、航くんと目があったけれど直ぐに思いっきり逸らされてしまった。
最初みたいに睨まれた訳ではない、けれど心臓がぎゅっと締め付けられる。
お頭さんと、網問くんと間切くん達が優しくしてくれるからって受け入れられたなんて思ったらダメだ……。
「お前らに管理を任せた南蛮の時計あるだろ?あれの管理をなまえにやってもらおうと思ってな」
「ああ…あれですか。管理してもらえるのは助かりますが…大丈夫ですか?」
「なぁに、なまえは飲み込みが早いし、真面目で熱心だから大丈夫さ。大丈夫だよな、なまえ!」
「えっ、あ、はいっ」
それから、東南風くんは作業を抜けて時計について説明をしてくれた。お頭も一緒になって聞いている。
時計についての説明は元より不定時法を理解する方が難しかった。
ローマ数字はなんとか読めるからいいけれど、日の出日の入りで時間の長さが変わったり干支が時間の呼び方なのは馴染みがない。
今までの生活で時間の呼び方とかはなんとなくわかってはきたけれど、不定時法を知らない事を悟られないようにしないと……。
「東南風は説明が上手いな〜」
「何人にも説明しましたから」
「それもそうか!なまえはわかったか?」
「はい…あの、この針って午の刻…えっと、真昼九つ?に、12時…じゃなくて、天辺に合わせれば良いんですよね?」
定時法でも不定時法でもお昼の時間……太陽が一番高くなる時間は変わらないはずだから、時刻はそこに合わせれば良いんだよね?
そう思って尋ねると2人は目を丸くしていた。
(えっ、どうしよう何かマズイことを聞いたのかもしれない)
「今の説明でそこまでわかったのか?」
「えっ…と……」
実際、東南風くんの説明は分かりやすかった。
でもいろいろと理解できたのは恐らく現代の知識があったからで……言い訳を悶々と考えているとお頭さんが助け舟を出してくれた。
「なっ、なまえは飲み込みが早いだろ?」
お頭さんはまるで自分の事のように自慢気に言う。
それがくすぐったくて気恥ずかしくて、でもなんだか暖かくてじんわりと涙が滲んだ。
「俺にはなんのことかさっぱり分からなかったけどな!!」
本格的に泣かないように俯いて我慢しているところを、お頭さんはガハハと豪快に笑って頭を思いっきりグワングワンと撫でる。撫でると言うより揺らす。
案の定髪の毛がぐしゃぐしゃに爆発した。
(20180619)
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