あの海と一つになれたらって、そう願ったのは何故だろう。

父は物心ついた頃からいなかった。
海が小さく見える家で母と2人。
「窓から海が見えるから、お父さんとこの部屋に決めたのよ」
昔の母は笑って教えてくれた。
父は海が好きだった。母は父が好きだった。
私はそんな母が大好きだった。





波の音。海の匂い。ドタドタと駆け回る足音。
目を開けるとそこは知らない場所。
私は寝巻きを着て寝かせられていた。
(…ここはどこだろう)
布団から這い出てこの部屋唯一の横開きの扉を開ける。

「あ!」

扉を開けるとちょうど部屋の前にいたシマの入ったバンダナをした青年と目が合う。

「起きたんだ!」
「あの、ここは」

言い終える前に青年は「お頭ーー!!!起きましたよーー!!!」と大声を上げながら駆けて行った。
突然の出来事に呆けていると青年が駆けて行った逆方向から額に傷が入った2人組の男性が歩いてくる。

「お、起きたな」
「網問のやつ、あんな大声出さなくても聞こえるっての」

1人は精悍な顔立ちに桃色に蜘蛛の柄の入った着物、そしてもう1人は軟派な雰囲気のイケメン、こちらも和装である。
一体ここはどこだろう。海の近くだということはわかったけれど、古風な和服を着ている人がいるような場所というのがイマイチ想像ができない。

「あの、ここは…?それに私は一体…」
「その話はお頭の前でしよう、歩けるか?」
「…はい」


2人に挟まれるように連れられて歩く。
建物の中は見知った感じではなく少し…いやかなり古風な印象を受ける。本当にここはどこなんだろう。
訳がわからないまま大の男2人に囲まれて怯えない訳がなく、けれどどうしたらいいか分からず黙って2人に着いて行く。


2人はある部屋の前で止まった。

「お頭、鬼蜘蛛丸です。例の女人を連れてきました。」

桃色の着物の人が扉の向こうに声をかけると中から「おう、入れ」と気の良さそうな男性の声が聞こえてきた。
扉が開かれ中に入ることを促される。
中に入ると、部屋の中心には恐らくお頭と呼ばれていた男性。その後ろには先程の青年と、髪がバサバサな青年がいた。

「目が覚めたみたいでよかったな!」

お頭はニカッと笑う。

「…あ、あの、不躾で申し訳ないのですが…ここはどこで私はどうしてここにいるのでしょうか?」

そう聞いた時、この場にいた全員は目を見開いた。
何かまずいことを聞いたのかもしれない…。

「覚えてないのか?」
「…はい」
「お前はな、この海で打ちあげられていたんだ、それをうちの若い衆が見つけてここに運んできた」
「海…?」

お頭の言葉に困惑する。海に打ち上げられてた?
海に寄った覚えなんてない…のに…?あれ?私は今までどこにいたの?海が見える家に住んでた。それは覚えている。でもそれだけ。

「…私、どうして海に…」

グニャリと視界が歪み目の前が暗くなる。
そしてそのまま意識を手放した。






***





「おい大丈夫か!?」
「お頭!不用意に近づいたら危ないです!」
「そうです!もしコイツが忍者だったら…!」

倒れたなまえに近づこうとする第三協栄丸を鬼蜘蛛丸と義丸が止める。
もし、忍者だったら…そう考えると恐ろしい。
倒れたふりをして近寄ってきたお頭の命を狙う可能性もあるのだ。現に4人…特に鬼蜘蛛丸と義丸はずっと警戒していた。

「お前ら、警戒しすぎだ。こんな痩せこけた女子が忍者な訳がないだろう!それより、間切!網問!その子を運んでって寝かせてやれ」
「わかりました」
「はい!」

第三協栄丸の指示で間切と網問はなまえを運んで行く。
2人で運ぶ必要はないので間切が背負って、網問は扉を開けたり他の事をしながら運んで行った。
体を揺さぶっても目覚める気配はない。


「鬼蜘蛛丸、義丸。警戒する気持ちはわかるが相手は傷ついた女子だ、見つけた時から丸腰だったし医者に診せたら痣は多かったが刀傷はないと言っていた」

女子を見つけたのは舳丸と重だ。先日の早朝海辺で走り込みをしていたら見つけたらしい。
2人が連れ帰った女子はびしょ濡れで不思議な格好をしていた。お頭はすぐに医者を呼び彼女を診させた。

「それに話してて思ったんだが、なんだか虐められて捨てられた犬みたいじゃないか…」
「お頭、乙女子に犬っていうのはちょっと…」
「義丸…お前さっきまで忍者だと警戒してただろ」

義丸に鬼蜘蛛丸が呆れた顔をして指摘する。
忍者だったら恐ろしいがそれとこれとは話は別だ。
しかし、忍者だとして敵地でああもぶっ倒れられたら敵意も削がれる。それはその場にいた全員が思っていた。

「あの子の事は全員が戻ってから決める」

それまでは勝手な行動は慎めとお頭は釘を刺した。


(20180305)
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