文字盤の4の上の穴に鍵を挿し込んでゼンマイを最後まで巻く。
8の上の穴は鐘用なのでそれも巻く、時間を合わせるとボーンと時計の大きさにしては重い音が響いた。
網問くんと間切くんがその作業を後ろから覗き込んで感心の声をあげる。
「へー、その穴は鐘の音用だったんだねー。間切知ってた??」
「知ってたけど巻いた事はないな」
「えっなんで知ってんの?」
「お前東南風の話聞いてなかっただろ」
網問くんが話を聞いていない事に間切くんが呆れながら返事を返す。
それから2人は、そういう間切も鐘の方のゼンマイ回してないじゃーん!などと戯れ始めた。
「それにしてもその鍵無くしそうだよな」
「一回無くしたの航だっけ?」
「そうそうあの時は大変だったよな、全員で探し回ってさ〜」
「東南風にすごく怒られたよね〜怖かった〜」
「東南風くんって怒ると怖いんですか?そうは見えないですけど…」
「そりゃもう!舳丸の兄貴と並ぶくらい怖いよね!」
東南風くんは落ち着いているからあまり声を荒げて怒るイメージが湧かないのだけど、多分威圧感的な意味で怖いのだろう。舳丸さんも……威圧感が凄そう。
豪快な人も多いし怒鳴ったり怒鳴られたりが日常茶飯事な場所で静かに押し黙って怒られる方が怖いのだと思う。
「なまえは怒らなそうだよね」
「えっ、そうですか?」
「確かに怒ってるところは想像できないな」
3人で談笑していると、扉の向こうから控えめに声がかけられた。
「……#nameさんいますか?」
「いるよー!」
それは、元気のない白南風丸くんの声。
その声に元気よく返事を返したのは私ではなく網問くんで、間切くんは立ち上がって扉を開けにいった。
扉の先にいた白南風丸くんの顔は声と同じで元気が無くて、どんよりとした雰囲気を醸し出している。
「あの、どうしたんですか?」
「なんでもないです……その、お医者様が見えたのでお頭が呼んでました」
それは、なんでもないというのには無理がある気落ちした声色であった。
助けを求めて間切くんを見るとやれやれといった顔で答える。
「泳ぎの練習でもして、溺れて重か舳丸の兄貴に助けられたんだろ」
「うっ……」
図星だったらしく、白南風丸くんはギクリと肩を揺らした。
いつの間にか白南風丸くんの横に移動した網問くんがポンと肩を叩き、落ち込む白南風丸くんを励ましている。
会話の流れから白南風丸くんは泳げないのだと知る。お頭さんも泳げないって言ってたけれど、海の上で仕事をする人達は泳げた方が何かと良いとは思う。
間切くんにここは良いから早く行けと背中を押され、お頭さんのところへ向かう。
お頭さんのいる部屋の扉をコンコンと控えめにノックする。
「なまえです。」
「おお、よく来た。入れ」
「失礼します」
そこには、お頭さんと由良四郎さんとお医者様が座っていた。
「随分と顔色が良くなりましたね」
お医者様は朗らかな笑顔でにこやかに笑う。
先生はとても良い人で、安静にしている間は暇だろうからと私に読みやすい薬草に関する本を貸して下さった。
「うちの飯を食ってるんだ、具合も良くなるさ!」
「由良四郎の腹を見ればうちの飯が美味いのは一目瞭然だな」
「そうですね!ってお頭も最近怪しいじゃないですか!」
由良四郎さんはノリツッコミの要領でポンと自分のお腹を叩いたあと、お頭のお腹をギュッと摘んだ。
たしかにここのご飯は美味しい。
採りたての新鮮な魚に、かまどで炊いたツヤツヤのご飯。
調理の仕方は豪快だけど、それがいい。時々味付けで言い合いしているのを見かけるけれど、私はどの味も美味しいと思う。
お医者様は一つ咳払いをして、脱線しかけた話を戻す様に促した。
「今日はなまえにもう一つ仕事をしてもらおうと思ってな」
「は、はい」
「がはは、そんな身構えなくてもいいぞ」
慌てて姿勢を正した私を見て、3人は笑った。
それから一呼吸置いてお医者様が横に置いてある救急箱ほどの大きさの木の箱から、乾燥した葉や根を何枚か出す。
それはお医者様から借りた薬草の本で見たことがあるものだった。
「ウワバミソウとハチク…ですか?」
「正解です。お頭さんの言う通りやっぱり賢いですね」
「そうだろ〜!」
お頭さんはドヤ顔で私の頭をガシガシと撫でた。
まるで自分のことの様に喜ぶ様を見ていると照れ臭くなる。
「いえ、あの、貸して頂いた本のお陰です……」
「そんなに謙遜しなくてもいいですよ。ずっと館に篭りっきりなのも良くないですからね、運動がてらこれらを採りに行って欲しいのです」
お医者はにっこりと微笑む。
由良四郎さんがボソリと、自分で採りにいくのが面倒くさいんだろ。と呟いて、お医者様にお腹を摘まれていた。
薬草って、どこで採れるんだろう……きっと森とか林だよね…?水軍館の裏には森があるけど入った事ないし、迷ったらどうしよう……。
迷ったら迷惑かけちゃうよね、ただでさえ厄介になってるのに……最悪見捨てられたり……?でも優しい親方さんの事だからきっと探してくれるだろうけど、でもやっぱりそれって迷惑なんじゃ……。
「1人で採りにいくと思ってるだろ?」
由良四郎さんがニタリと聞いてくる。
「え、あっはい、皆さん忙しそうなので……」
「バカだなぁ、森なんて山賊が出るんだぞ、そんな危ないところに1人で行かせるわけないだろ」
「ハチクは葉だけでなく竹も取ってきて欲しいので、1人で、それも病み上がりの女子には難しいと思いますよ」
お頭さんとお医者様が畳み掛けるように言う。
そして由良四郎さんがいい笑顔で竹製の背負い籠と鉈を私に渡した。
「今日は水夫が暇だからな、こき使ってやれ」
まだコミュニケーションもろくに取れてないのにどうしたら……。由良四郎さんやお頭のいい笑顔と対比して泣きそうになる。
とはいえ行きたくないとは言えないので、内心渋々籠を受け取った。
(20180811)
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