龍可と龍亞と昼食をとり、アカデミアの話を聞いたり一緒に遊んだあと暗くなる前に2人を見送って、やり残した家事を進める。
遊星達の部屋は掃除機をかけるだけで良いとして……隅々まで掃除するのはプライバシーの侵害だよね。
うんうん、お姉ちゃんはわかってるよ。
ブルーノはDホイールの開発に戻って、パソコンと睨めっこしている。驚異的な集中力だから近くで掃除してても気にも留めないだろう。
部屋が綺麗だと何事もうまくいくってマーサも言ってたような気もするし遊星達が帰ってくる前にとっとと終わらせよう。


掃除機をかけて、水回りを掃除して、ゴミを捨てに外に出た所でゾラに呼び止められた。

「なまえ!ちょうど良いところに!」
「あ、ゾラ」
「遊星ちゃんから電話だよ」

遊星のところには電話がないので、ゾラのところにかかってくるらしい。浪費家がいるし、多分そんなに使わないからなぁ……。

「もしもし」
「なまえ、今日は鬼柳の所に泊まるから帰るのは明日になる。すまないがそれまで頼む」
「ん、わかった。鬼柳さんによろしく伝えてね」
「ああ」

口数の少ない遊星は用件だけ伝えるとカチャンと電話を切った。
後ろでクロウとジャックの言い合いが聞こえたからみんな怪我もなく元気なのだろう。
口振りから鬼柳さんの問題も解決したみたいだし、久し振りに会う仲間なんだから積もる話もあるよね。

「遊星ちゃん何だって?」
「今日はみんなで泊まってくるんですって」
「あらそうなの、だからなまえウチに来て留守番してるのかい?」
「そうそう、ブルーノ1人だと心配だってクロウが言うから」

ブルーノの生活力が低いわけではないけれど、記憶喪失だし、過去にプログラムを盗まれたりしてるから1人でいるのは危ないと言うわけだ。
過去にジャックになまえがいれば泥棒なんて一捻りだな!と言われたの未だに納得できないんだけどね。


「いくら仲間とはいえ男と2人きりなんて」
「私はサテライト出身よ?護身術くらい使えるって」
「……あんたが平気なら良いんだけどさ」
「ジャックなら、ブルーノの方が危険な目にあうって言うかも」

ゾラは呆れたようにため息をつくと立ち話も野暮だからと紅茶をお菓子を出してくれた。
それから、取り留めのない世間話に花を咲かせていたけれど
マーサの昔の話とか、ゾラの息子の話とか段々と聞き応えのある話に変わっていって、ボーンと時計の鐘が鳴るまで喋り続けていた。

「あらヤダもうこんな時間、あんた聞き上手だからつい喋っちゃうよ」
「ゾラの話が面白いんだよ」

空は赤から紫へと色を変えて、夜の帳に包まれていた。












「ただいま〜」
「なまえ!!」

ゾラと別れ、ガレージに戻るとブルーノに勢いよくガバリと抱きつかれた。
抱きつくとというよりタックルに近いソレは199cmがやると最早事故である。

「痛っ!!えっ!?何???どうしたの!?」
「……なまえ」

ギュウギュウと抱き締められ、目の前は真っ暗。
どうしたのかと聞いてもブルーノは私の名前を呼ぶだけで、何も答えない。
きつい抱擁からなんとか腕を彼の背中に回して、落ち着くようにゆっくりと撫でてやる。しばらくそうしているとブルーノは落ち着きを取り戻したのか、抱擁を緩めた。

「いなくなったかと思ったよ……」
「……ごめんね、ゾラの所にいたの」

背中を撫でていた手を離し、ブルーノの頬を包むように触れる。
彼は大きな身体を縮こまらせて、まるで迷子になった子供のような表情をしていた。
彼は今までそんな素振りを見せた事はないけれど、記憶喪失になって、自分の事も大事な人も思い出せないなんて大海原に1人漂流してるような孤独と恐怖との戦いだと思う。
今までは誰かしら家にいて忙しくしていたから考える暇もなかった……いや、むしろ目を背けていたのかもしれない。

「ブルーノ、屈んで」

ブルーノは疑問符を頭に浮かべながらおずおずと屈む。
屈んでも大きいなぁなんて思いながら初めてマーサに会った時、私を孤独から救ってくれたマーサにしてもらったように頭を抱え込むようにブルーノを抱きしめる。
小さい頃、寂しくなった時、悲しくなった時、マーサは出会った時と同じようにこうやって抱きしめてくれた。大丈夫だよ、安心しなと言ってくれた。

「1人にしてごめんね、寂しくなっちゃったんだよね?」

腕の中でブルーノが身動いた。
大丈夫だよ、との意を込めて頭を撫でる。体格差のせいで不恰好だけれど、気持ちはきっと伝わるはずだ。

「私ね、辛い時マーサにこうして抱きしめて貰ったの」
「なまえ……」
「こうすると嫌な気持ちがどっか行っちゃうんだから!だから、大丈夫だよ」

気休めにしかならない事は分かっているけれど、少しでもブルーノの気持ちが晴れればいい。










「なまえ、もう大丈夫だよ」
「本当に?」
「うん……ありがとう」

腕から抜け出したブルーノは、眉尻を下げながら笑った。
……嘘つき。大丈夫じゃない事は一目瞭然だけれど、建前や矜持というものが分からないほどお互いに子供ではない。

それでも、なんだか信頼されていないみたい……そう思うのは身勝手だろうか。


「大丈夫なら、ご飯の準備手伝ってね!」
「う、うん」

行き場のないもやもやした感情を誤魔化すように、ブルーノの頬を抓った。
これはもう完璧にただの八つ当たりだ。

(20180902)
戻る

ALICE+