お医者様の仕事を引き受けてから、東南風くん、航くん、網問くん、そして陸酔いで苦しんでいる間切くんの代わりの白南風丸くんと一緒に森へ来た。
網問くんは楽しそうに東南風くんと会話をしながら私の手を引いて先導してくれる。

「間切来れなくて残念だね〜」
「あいつは陸酔いがあるからな」
「いいな〜陸酔いは筋金入りの海の男の証だもんね!!」
「ろくなもんじゃ無いと思うが…」
「え〜!そうかなぁ?なまえはどう思う?」

航くんは押し黙ったまま、そして白南風丸くんは肩を落としながら歩いている。
お頭さんに言われた時、まだコミュニケーションが取れないから嫌だなぁ……なんて思ってしまったけれど、本当に嫌なのは、折角のお休みの時間に私なんかに付き合わされる水夫のみんなだよね……。
俯いて、悶々としていると握っていた手が離された。

「……なまえ?」
「えっ、あ、えっと…なんですか?」
「も〜!聞いてなかったの?」

すみませんと謝ると、網問くんは膨れっ面でなまえってよくボーッとしてるよね!と人差し指で頬を突く。少し痛い。

「もしかして具合が悪いのか?」
「えっ、そうなの?大丈夫?」

東南風くんが顔を覗き込んで、網問くんは頬を突くのをやめる。

「だっ大丈夫です!」
「……顔色は悪くなさそうだが、何かあったら直ぐに言え」
「何かあってからじゃ遅いんだからね!」








それからしばらく歩くと分かれ道に出て、効率よく作業する為にと東南風くんの提案で二手に分かれることになった。
若干の上り坂になっている道には網問くんと航くんのフットワークが軽い組、
平坦な道は私と東南風くんと白南風丸くんで行くことになった。
きっとお荷物だよね、私……。しっかり薬草を摘んで少しでも役に立たないと。

先頭を歩く東南風くんの後を白南風丸くんとついて行く。
白南風丸くんの表情は冴えない。
ジッと白南風丸くんを見つめると困ったように眉を下げて笑った。

「……なまえさん、頑張りましょうね!」
「は、はい」

多分、泳げない事で悩んでるのかも……。
私なんかじゃ力になれそうにもないし、力になりたいって思う事も烏滸がましいのかもしれない……。

「「はぁ……」」

2人で一緒になって肩を落として溜息をついた。

「……体調が悪いとか、悩みがあるとかそういう事を言うのが迷惑だと思っているなら、それは違うからな。」

しばらく無言だった東南風くんが立ち止まってポツリと言う。

「え、と」
「東南風?」
「お前ら2人に言ってるんだ」

それは少し怒っているような声色で、それでも落ち着きを伴って諭すように語る。

「なまえは俺たちに遠慮しているし、白南風丸は黙って1人で泳ぎの練習をしている。俺たちは悩みを相談できないくらい信用がないのか?」
「東南風くん……」
「例えばなまえが体調が悪いのを黙っていて後で倒れたり、白南風丸が1人で海で泳ぎの練習をして溺れたりして、それを事前に知らなければ助けることもできない。そっちの方が迷惑だろう?」
「でも、俺は……俺だけ泳げないから、みんなに迷惑がかからないように早く泳げるようにって……」

作った握り拳を震わせながら白南風丸くんが自分の思いを吐露する。
みんなを信頼していない訳じゃない、でも自分のせいで誰かを煩わせる訳にもいかない。

「だから、だから、俺は……」
「……俺たちは、お前が泳げるように練習するのを手伝うのを煩わしいなんて思ったりしない。それに、俺たちが手伝ったところで結局頑張るのはお前なんだ、お前だって仲間の頑張りを応援しないなんて事はしないだろ」
「東南風……俺……」

東南風くんの落ち着いた喋りに白南風丸くんは瞳を潤ませて、小さくごめんと呟いた。
みんな白南風丸くんがこっそりと泳ぎの練習をするのを知っていた。特に年の近い水夫と水練の2人は白南風丸くんを気にかけていたが、いつまで経っても周りを頼らないからやきもきしていたらしい。

「で、なまえ」
「ひゃ、ひゃい!」

白南風丸くんの事が落ち着いたら、今度は白羽の矢がこちらに向いた。油断していたので盛大に噛んでしまった。
白南風丸くんが微妙な表情でこちらを見る。
あの表情は標的が変わった憐れみと、噛んだ事への可笑しさが混ざっている……と思う。

東南風くんは、無口で落ち着いているけれど水夫の中で一番年上との事もあって面倒見がいい。そして、よく人を見ている。

「なまえは今、航の事で悩んでるんだろ?」
「や、あの……それは……」

ど直球に投げかけられた問いについ固まる。
笑いの治った(結局笑った)白南風丸くんは、「えっ、そうなんですか?」とおとぼけた表情で聞き返す。
なんて返そうかと思考を巡らせたが、こちらをジッと見つめる眼圧に負け素直に話すことにした。

「私、航くんに嫌われてて……あっ、もちろん私なんかが好かれてる訳はないんですけど、その…目も合わせてもらえなくて……航くんが悪い人じゃないってわかってます、でも私どうしたらいいか…わからなくて」
「……それは――」


東南風くんが言葉を紡ごうとした時、森林からガサガサと草木をかき分ける音がして東南風くんは黙って私を後ろ手に隠し、白南風丸くんは刀に手をかけた。


(20180930)
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