元キングのベットはキングサイズ……なんて面白くもない冗談を脳内で浮かべながら、キングサイズではないけれど通常よりも大きなベットにダイブする。
ブルーノに「ジャックがいないのだから、ソファーではなくて大きなジャックのベット使えばいいのでは?」と提案したら「怒られるし、ソファーでも充分寝れるから」と返ってきて少し不憫に思った。
本人が良いなら良いんだけど……遊星かクロウのベットを使うつもりだったけれど、どうせなら大の字で寝てみたいよね、という事でジャックのベットを使う事にした。
あとで文句を言われるだろうけど無視すればいいし。
今日は色々あったなぁ……なんてベットの上で今日を振り返る。
遊星達が鬼柳さんの所に行くから留守を任されて、双子に遊園地に誘われて、傷心のブルーノを慰めて……
ブルーノはどうしてキスしようとしたんだろう……。
本人に問いただす訳にもいかないし、そもそも私の勘違いだったら自意識過剰もいいところだ。
「人の心なんて考えたってわからないし、寝よ寝よ」
帰ったら雑賀さんに実名とかを出さないで相談しよう。
1人で悶々と考えたって答えは出ないのだから。
***
気がついたら知らない場所にいた。
「あれ、ここどこ?」
感じの良い上品な高級ホテル。
窓の外は見晴らしが良く、見覚えのないサーキットが見える。
前にもこんな事があったような……?
部屋の隅に置いてある青紫のキャリーケースを見て思い出した。
「……前見た夢の続き?」
声に出してみたものの返事はない。
夢の続きにしては前のホテルとは違うようだけれど、青紫色のキャリーケースは見覚えがある。
確かここは200年後の未来で、ジョニーさんというプロのDホイーラーがいて……。
私の夢だとしても突拍子がなさすぎるでしょ。
前と同じようにドアノブに手をかけるが、思った通りすり抜けてしまう。
すり抜けるのなら、扉も通過できるよね……?
このままここにいてもよくわからないままだし、まずは外に出て情報収集をして、それから……ごちゃごちゃ考えても埒が明かない、夢ならいつか醒めるだろうけどここにいても暇だしね!
勢いよく扉に向かって直進したら、痛くはないが何かに弾かれるように激突した。
「……なんで?」
私の可動領域はこの部屋だけって事??
それから四方の壁という壁に突進して激突を繰り返す。
触ると透けるのに向こうに行こうとすると弾かれるんだよね……。
側から見れば変人なんだけど、これは夢だからいいのだ(と自分に言い聞かせる)
結局どこからも出られず、途方に暮れながら窓の外を眺める。
空に浮かぶ巨大な電子モニターに、限りなく支柱の少ないサーキット……まるで子供の頃に思い描いた未来そのものだ。
ぼんやりと窓の外に視点を向けていると、後ろでガチャリと扉が開く音がした。
振り向くと思った通りジョニーさんがいて、サングラスで表情はよくわからないが多分驚いていた。
「……君は」
「あはは、えっと……」
「この前の200年前のゴースト」
「霊体にはなってるけど幽霊じゃないから!」
「触れないし、このセキュリティ万全なホテルの部屋に入れるならゴーストと変わらないじゃないか」
ジョニーさんは少し戯けたように笑う。
その手には金色に輝く優勝カップが握られていて、キラキラと輝いていた。
「それ、優勝カップ?」
「ん?あぁ、今日の大会に優勝したんだ」
「すごい!前も優勝してたよね?」
「優勝すると君が現れるな」
さしずめ勝利の女神ということかな?彼は冗談めかして言いながら、優勝カップを机の上に置いた。
その言葉にあなたの実力でしょ、と苦笑いを返しながら優勝カップを眺めようと机に近づいた。
優勝カップを彩る金色は輝いて周りを写し込むほど磨かれていたが私の姿は映らない。
「なまえ、君は不動遊星を知ってるかい?」
「遊星?知ってるも何も私は遊星のお姉さんみたいな――」
「それは本当かい!?」
言い終わる前に物凄い勢いで食いついて来た。
一体遊星がなんだっていうの?
「本当にあの英雄のお姉さんなのかい?」
「姉貴分ね、ところで遊星が英雄?それはどういう?」
「そうさ、ダークシグナーとの戦いに勝利した英雄で、WRGPでは――」
「ま、待って!WRGPは遊星たちが優勝するって信じてるけどその先は言わないで!」
「え?……あぁ、…わかった、言わない」
ジョニーさんは少し考える素振りを見せてから私に向き直る。
「言わない代わりに、君が知ってる不動遊星の話を教えてくれないか?」
「それくらいなら、遊星はね――」
***
世界が暗転した。
そう、私はベットから落ちたのだ。
「いったぁ〜……なんで自分のベットより広いベットで落ちるの…」
カーテンの隙間から朝日が差し込んで、もう起きる時間だと告げている。床に転がったまま1つ伸びをする。
夢を見ていた。
そう、アレは200年後の世界で……赤いサングラスの……ダメだ、断片的にしか思い出せない。
しかし夢にしてはなんだか質感があるというか質量を伴っているというか、うまく表現できないけれど『夢』で片付けるには些かリアルだった。
「なまえ、何か音がしたけど大丈夫?」
扉の向こうでブルーノが心配そうに声をかけてくる。
私がベットから落ちた音で起きたか、元々寝てないか……
自分の安否を伝えるのと、ブルーノがちゃんと寝たか確認する為に扉を開ける。
「ベットから落ちただけだから大丈夫」
ブルーノは眠そうな顔をして、それなら良いんだけどと欠伸を噛み殺した。
「起こしちゃった?」
「少し前に起きたんだ、そしたら物音が聴こえたから…」
「あはは……」
ジャックはベットから蹴り落とされることはあっても落ちることはなさそうだし、遊星は寝たら微動だにしないし、クロウは落ちそうで落ちない。
つまり私はポッポタイムで初めてベットから落ちた恥ずかしい人になる。
いつも自分が寝ているベットより大きなベットで落ちるとか恥ずかしい……。
「なまえ」
ブルーノが、優しく私の頭を撫でる。
撫でるというよりかは撫で付けるように何回か撫でると満足げに手を離した。
「寝癖ついてたよ。
「あ、ありがとう」
「なまえっていつもちゃんとしてるから、こういう抜けてるところもかわいいね。」
「……え」
頭が回らないのは寝起きだからなのか、それとも。
(20181010)
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