東南風たちと別れて、航と2人になり気になった事を聞いてみた。
「航ぁ、なんでなまえと喋んないの??」
「は?」
無言で黙々と進む航はオイラの問いかけに凄みながらピタリと立ち止まる。
「あっ、わかった!なんて喋っていいかわからないんでしょ?周りに大人しい子いないもんね〜」
ポンと態とらしく手を打ちながら言うと、航は顔を思いっきりしかめた。
兵庫水軍に来る女の人と言えば、恰幅がよく威勢の良い野菜売りのおばちゃんや、魚を買い付けに来るハツラツとしたお婆さんだ。
なまえみたいな控えめで大人しい、悪く言えば陰鬱な雰囲気の子はあまりいない。
「……あのなぁ、俺はまだ疑ってるんだよ…それに…」
「それに?」
「卑屈過ぎて腹が立つ」
「それはわからないでもないけど……でもオイラの妹分を疑うんだ〜?」
「妹分って……年上だろ?」
兵庫水軍で一番年下のオイラにとって、オイラの後にお頭に拾われたなまえは年上でもなんでも妹分なのだ。
この間、義丸の兄貴にそう言ったら腹を抱えて笑い転げられ、鬼蜘蛛丸の兄貴に言ったら神妙な顔をされた。
最後にお頭に言ったら、笑って「妹分を大事にしろよ」と豪快に頭を撫でられた。
「後から来たから妹分でいいの!」
航は怪訝な顔をしたまま、オイラの発言について反論しようと口を開いた時、薮の向こうから上品とは言いがたいダミ声が複数聞こえて2人で咄嗟に身を低くした。
所々聞こえてくる内容を繋ぎ合わせると、どうやら最近この辺で活動をしている山賊らしい。
「……航、どうする?」
「一旦東南風達と合流しよう」
水軍館から程近くの山に山賊がいるとあっては色々と不都合だ。
姿勢を低くしながらなるべく音を立てないようにその場から立ち去る。
相手は複数、多勢に無勢逃げるが勝ちだ。
***
私たち3人に緊張が走る中、ガサガサと藪を掻き分けて出て来たのはあまり綺麗とは言えない格好をした冴えない中年のおじさんだった。
「人゛が゛い゛る゛ぅ゛……!」
おじさんは私たち3人を見るなりわっと泣き出した。
そして一番前にいた白南風丸くんに駆け寄るとまくし立てるように自分の状況を話し始める。
「おれは最近この辺りに越して来た者なんだがちょっと迷っちまってよ、丸一日家に帰れなくて困ってたんだよぅおおお…」
泣きながら縋り付く様子に呆気に取られる。
白南風丸くんは目線でこちらに助けを求めているし、東南風くんはおじさんにドン引きしている。
「お前さんたちは、この山に詳しいのか?」
おじさんはグズグズと鼻をすすりながら白南風丸くんに問いかける。
「俺たちは――」
「ここらに美味い山菜があると聞いて取りに来たんだ。なぁ、姉さん」
白南風丸くんの返事を東南風くんが遮って答えた。
話を合わせろとの圧力を目線で送られる。しかし喋るとボロが出そうなので、コクリと頷くだけに留めておいた。
それで正解だったらしく、東南風くんは一瞬安堵の表情を浮かべその表情をすぐに戻す。
「お前ら兄弟なのか、似てないなぁ……」
泣き止んだおじさんは繁々と私たちを見る。
うまく言語化出来ないけれど、なんだか嫌な感じがした。
「別にいいだろ、行こう姉さんたち」
白南風丸くんがぶっきらぼうに返事を返して、おじさんから離れる。
どうやら兄弟で通すらしい。しかも私が長女。
大丈夫かな、今まで散々頼りないとか赤子とか言われてるから“姉さん“なんて難しいと思うけどなぁ……。
東南風くんと白南風丸くんがおじさんから離れる事を選択したので、おじさんには悪いけれど大人しく2人について行こうとした時
「いやいやいや、おいて行かないでくれよぉ!!俺迷子なんだぞ!」
「わっ!!」
おじさんは必至の形相で間合いを詰めてきて私の腕を掴んだ。
どう考えても1番貧弱だから狙われたんだと思ったが後の祭り、おじさんは逃げられないようにと腕を掴む力を強くしてくる。
「痛っ…!」
「なまえ!」「なまえさん!」
「ちょっと案内してくれてもいいじゃないか」
そう言って腰にある刀をチラつかせるおじさんはどう見ても、ただの迷子の一般人ではない。
東南風くんたちは私が捕まっているからどうすることもできないようで、おじさんを睨んで動かない。
どうしよう……私なんかのせいでなんだか大変なことに……。
なにか、なにか考えなくちゃ、考えて行動しなくちゃいけないのに、怖くて動けない。
どうしよう、一体どうしたら……。
一触即発の雰囲気で、この場にいる誰もが動けないで固まっていると
先程おじさんが出てきた藪からガサガサと掻きわける音が聞こえて網問くんと航くんが飛び出してきた。
「なまえ!思い切りしゃがめ!」
それを合図に東南風くんが叫び、驚いたおじさんの腕が緩んだ隙に、全体重をかけてしゃがんで拘束を解く。
私を拘束していた手が離れたと見るといなや、東南風くんはおじさんにドンとタックルをかまして、おじさんを突き飛ばした。
どうにかおじさんから離れようと急いで駆け出そうとするものの、足をもつれさせた私は顔から転んでしまった。痛い。
「えっ、何だ!?」
「何これどういう状況!?」
偶然タイミングよく出てきた2人は状況が掴めず、ただ狼狽えるしかない。
恐怖と安堵で手や足が震えて、1人ではうまく体が動かせそうになかったが白南風丸くんに起こされながらなんとか立ち上がる。
おじさんは目を回してひっくり返っていて、すぐに起き上がってくることはなさそう。
東南風くんはおじさんの持っていた刀を取り上げ、私に持っているように言い、手渡した。
ズッシリとした重みが手から伝わってくる。思ったより、重い。
「怪しい奴に絡まれて、東南風が倒したところ……ところで、航たちはどうしてこっちへ?」
「あっ、そうだよ!この辺りに山賊のアジトがあるみたいで何人か彷徨いてたから合流しにきたんだ」
「そこで伸びてるおっさんも山賊の仲間っぽいよな」
「……戻ってお頭に報告する必要があるな」
4人が相談しているのを、刀を抱えながら聞く。
刀は時代劇見るような小綺麗なもので無く、鞘は傷だらけで柄はボロボロだ。
会話には入れないので大人しく待っていると、風に乗ってほんのりと焦げ臭い匂いがして、航くんと網問くんが出てきた藪に何かいることに気がついた。
目を凝らしてみると、火縄銃を向けた人がいて一番近くにいた航くんを狙っている。
私は思わず駆け出して、航くんを押し退けるようにぶつかる。
それと同時にパァンという発砲音がして左肩が熱を帯びた。
「……っ!?」
「なまえさん!!」
「くそっ火縄銃か!」
「追うな!まずなまえを医者に見せるのが先決だ!」
網問くんが犯人を追いかけ藪の中へ駆け出そうとするのを東南風くんが止める。
……航くんのこと思わず突き飛ばしたけれど、大丈夫かな?
バクバクと心臓が鳴り響いて、左肩は熱くて、うまく考えることができない。
「……航くん…怪我は……?」
航くんの方を見やると、驚愕した顔をしていてそれからすぐに怒った顔になって怒鳴られた。
「ばかやろう!!!!」
怒鳴られたと思ったらあれよと言う間に背負われ山道を下る。
後ろの方で「ちょっ、まずは止血!」という白南風丸くんの声が聞こえたような気がする。
(20181031)
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