(モブ視点)
オレの名前は藻部モブ太!!
安心してほしい、もちろん偽名だ!
ごく普通の取り柄のない、いたって普通の男子高校生である。
最近進級して新しいクラスになったのだが、どの学年にも数人は目立つ奴はいるもので、そのうちの2人(厳密に言えば3人)と同じクラスになった。
モブまっしぐらなオレには羨まし……いや、よく考えたらそうでもない。
1人は学級委員長の尾浜勘右衛門、2年連続で学級委員長をやるという天然だが信頼の厚いやつだ。巻き込まれ型だと本人は言っているが、いろんな物事に首を突っ込んでいろんな問題を抱えてくる。
そしてもう1人は久々知兵助。成績優秀、容姿端麗、文武両道で非の打ち所がない人物……だと思っていた。
そして、その久々知のせいで目立つことになった大木なまえ。
元々優しくて大人しくて気立ての良い性格から一部男子の間ではちょこちょこ話題に上がっていたのだが……今ではすっかり別の意味で話題に上がる。
で、どうしてこの話題かと言うと、最初の席替えでオレの隣の席がなまえさんになった。
久々知の素行を知らなかったオレは、なまえさんの隣とかよっしゃラッキー!!と思っていた。
しかし、その喜びも直ぐに絶望へと塗り替えられる。
そう、久々知だ。
ただでさえ目力があるのに、その目力10倍増しでオレのことを睨んでくるのだ。(それもなまえさんにバレないように)
めっっっっっっっちゃ怖い。
3年生の有名人の七松先輩や潮江先輩よりも怖い。(対面したことはないが……)
項垂れているオレに尾浜がどうしてこうなったのかを説明してくれた。
「兵助はなまえちゃんを信仰してるから、下心を持って近づくものを駆逐しようとするんだよね……ほんとごめんね〜」
「なにそれこわい」
軽い調子でごめんと謝られても困るが……、1番困っているのはなまえさんだろう。
その後、目が悪いので前の席に行きたいとそれらしい理由を無理やりつけて久々知と席を代わった。
それからと言うもの、なまえさんに告白しようとした男子は謎の腹痛により数日学校を休んだり、なまえさんと同じ班やらチームになったやつが後からそれらしい理由をつけて辞退するという現象が続いた。
そして、最近久々知の鞄に藁人形が入っていると言う噂を聞いたが真相はわからない。
わからないが、なまえさんの周りで起きている事に久々知が関わっている事は明白だろう。
そして今、先生に捕まりプリントやらノートやら結構な量を運んでいる。
なまえさんと一緒に。
不幸にもオレは先生に捕まったのだけれど、それに気がついたなまえさんが一緒に運ぶと申し出てくれた。
あっ、これ久々知に見つかったら死ぬやつだ。と、内心冷や汗をかきながら実はちょっと嬉しかったりする。
あとはマジでプリント類が嵩張って1人で運ぶの辛かったので、申し出を受け入れたわけだが……優しい女の子に助けてもらうのって、なんていうか、惚れてまうやろーーー!!!!って叫びたくなる感じ。
そんな事をやったら本当に久々知に殺される気がするから絶対にやらないが。
「藻部くん、先生に捕まって大変だったね?」
「いっ、いや、なまえさんこそ手伝って貰って悪いね?」
声が上擦ってないか?大丈夫か?平然を装えているか??
お恥ずかしい話だが、この藻部モブ太(偽名)の今までの人生で女の子と触れ合った事がほとんどなく、女の子と喋るのはとても緊張する。
しかもその相手がなまえさんだ。
いろんな意味で緊張もひとしおだ。そう、いろんな意味で……。
緊張と興奮と恐怖で余裕なんてなくなりながら教室の目の前まで来たが、2人とも両手が塞がっていてドアが開かない。
行儀は悪いが足で開けるか、と思っていたらガラリと扉が開いた。
出てきたのは久々知だった。
あっオレ死んだわ。
「久々知くんありがとう」
絶対零度の冷たい目でオレを見ていた気がするが、なまえさんがにこやかに久々知にお礼を言うとその表情を綻ばした。
なんだその代わり様。
「どういたしまして、ところでその荷物は?」
なんでもない様にヒョイとなまえさんの手からプリント達を取って代わりに持つ。
あまりに自然にやってのけるものだから、これだからイケメンは!と心の中で悪態をついた。
「先生に持っていく様に頼まれたの。ね、藻部くん」
「う、うん、先生に捕まったんだけど、なまえさんに手伝って貰ってよかったよ」
「大変そうだったし、手伝うのは当然だよ」
頼むから久々知の前でオレに話題を振らないでほしい。
やんわりと手伝って貰ったのはオレで、決してオレから近づいた訳ではないと伝える。
「そうか、困っている人を助けるなんてさすが天使だな」
「えっ、えっと……?」
断言しよう、現在進行形で困っているのはなまえさんだ。
「藻部も悪かったな、多分それ勘ちゃんの仕事だ」
「尾浜の?」
「学級委員だろ、朝呼ばれてたのをきっと忘れてるんだ」
「まじか」
殺されると思ったが、何事もなく会話が進む。
あれ……??なんだか拍子抜けだ。
ぶっ壊れていない時の久々知は非の打ち所がない好青年で、嫉妬する気が起きないほどのすごい奴だ。(まあ別の意味で尊敬も嫉妬もできないが……)
その後すぐに購買で買ったであろうパンを抱えた尾浜が教室に入ってきて、オレの腕にあるノートを見て丸い目を更に丸くしていた。
「あっ、やべ、先生に頼まれてた仕事忘れてた」
尾浜は苦笑いを浮かべ、ごめんごめんと軽く謝りながらオレたちのところへ来る。
「藻部がやってくれたんだ、ありがとう!お礼はパンでいいかな?」
尾浜は購買のパンを適当に1つ渡した後、
オレにだけ聞こえるようにボソリと「この前、兵助の敵リストからうまいこと外しておいたから許して」と言った。
敵リストってなんだよ……。
そのうち黒くて名前を書いた人を殺せるノートとか出してきそうだな……。ネタが若干古いが……。
「なまえも手伝ったぞ」
「わたしはそんなに手伝ってないよー」
「なまえちゃんもありがと〜!パンいる?」
「えっと、今日は久々知くんが作ってくれたお弁当があるから……、尾浜くんのご飯無くなっちゃうし大丈夫だよ」
「あ〜〜……」
尾浜は納得したような呆れたようなどっちつかずの声を出す。
久々知の作ったお弁当ってなんだよ……お昼まで提供、もとい押し付けてるのか……。
(20181115)
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