目の前に、縮こまって座っている“私”がいた。

「お前なんかどこか消えてしまえ」

顔の見えない“誰か”が“私”に言った。

「ごめんなさい……」

”私“はただひたすらに謝る。
“誰か”は呆れたように深いため息をついてもう一度同じ事を言う。
“私“は泣き喚きながら謝罪をやめない。

「ごめんなさい…ここにいさせてください…ごめんなさい……」

私は知っている。
泣いて謝っても、”誰か”は許してはくれないことを。
私は知っている。
縋り付くことしかできない“私“の弱さを。







***







ドタドタを廊下を駆け回る音が聞こえて目が醒めた。
波の音。海の匂い。コチコチと時間を刻む南蛮の置き時計。
水軍さんたちが貸して下さったいつもの私の部屋。
時計を見ると針は9時を指していて、外は明るい。
と言うことは……寝坊!?大変どうしよう!と急いで起き上がる。

「痛っ……」

ズキリと左肩が痛んで、布団に逆戻り。
あ……そうだ、みんなで薬草を採りに行って怖いおじさんに絡まれて銃で撃たれそうな航くんを庇ったんだ……。
庇ったというか偶然が重なって上手いこといっただけなんだけど。
そのあと航くんに背負われて、水軍館まで戻ってきて……その後が大変だった。
銃弾は左肩を掠っただけで、見た目よりは酷くないらしいが、お医者様にはものすごい剣幕で怒られ、豪快に消毒をされ、包帯でぐるぐる巻きにされ動かさないようにガッチリと固定された。
縫うような事はなかったけれど正直消毒が1番痛かった。
東南風くんや白南風丸くんにも怒られて、網問くんには泣かれた。
そして1番怒っていたのは、航くんだった。
その後ドクターストップがかかり、強制的に寝かせられて……痛みと戦った疲れですぐ寝てしまったんだ……。





「なまえ起きてるか?」

扉の向こうから義丸さんから声がかかった。

「は、はい、起きてます」

左肩を庇いながら、ゆっくりと起き上がる。
ゆっくりとした動作なら問題はなさそうだ。

「入ってもいいかい?」
「はい、大丈夫です」

まず部屋に入ってきた義丸さんは私の首元まで厳重に巻かれた包帯の量を見て苦笑した。

「随分と厳重に巻かれたな」
「あはは……」

それに関しては力無く笑うことしかできない。
義丸さんは「動かさないように厳重に巻かれるのは、網問と航と重くらいだぞ」と茶化しながら布団の横に座った。

「傷残らないといいな」
「元々痣だらけなので1つくらい傷が増えても大して変わらないですよ……それに、義丸さんも傷だらけじゃないですか」
「俺はいいんだよ、海の男の勲章ってやつだ」

義丸さんはそう言ってヘラリと笑う。
水軍さんたちはみんな体格が良くて顔に傷跡があって威圧感が凄いのだけれど、義丸さんは傷さえも妖艶な雰囲気を醸し出している。
色男ってこう言う人のことを言うのかもしれない。黙り込んでいると怖いことには変わらないのだけれど……。

「あの、航くんは……」
「航たちは反省中。とりあえずなまえの傷が塞がるまでなまえと面会は禁止令が出てるな」
「え?」
「医者がおそらくなまえは気を遣って無茶するし、航たちは航たちでへこむだろうから面会禁止って御触れを出したんだ」
「えっと……」
「あ〜、まぁつまり早いとこ傷を治せば問題ないってことだな」

どうやら義丸さんはわざわざ航くんたちの事を伝えに来てくれたらしい。

私が怪我してる間は航くんたちは怪我のこと気にして、お仕事に身が入らないよね……。
そもそも、私なんかが足を引っ張ったせいで、航くんたちに余計な罪悪感を植え付けちゃって……そうしたらやっぱり兄貴分である義丸さんたちも気にするだろうし……。


「……なまえ、何を考えてるの知らないが――」
「義丸ゥ!!いないと思ったらここにいたのか!!!」
「ちょ、鬼蜘蛛丸の兄貴!」

義丸さんが何か言いたげに口を開いた時、少し開いていた扉がスパンと勢いよく開いて、鬼蜘蛛丸さんが怒鳴り込んできた。
般若のような形相の鬼蜘蛛丸さんを後ろから間切くんが必死に止めようとしているが効果はないようだ。

「怪我人の前で大声出すなよ」
「あ、すまん。……じゃなくて、会議中抜け出すな!!」
「俺がいなくても進んだだろ?」

義丸さんの言葉に鬼蜘蛛丸さんは頭にきたらしく、義丸さんの頭に鉄槌を落とした。
ゴンと鈍い音がして、義丸さんは文句を言ったが鬼蜘蛛丸さんは右から左に受け流して義丸さんの襟を掴んでズルズルと部屋を出て行った。

「なまえ、航のことありがとう」

鬼蜘蛛丸さんは背中を向けながら部屋を出る前にそう言った。
残された間切くんはどうしていいのか分からずオロオロしていたが、鬼蜘蛛丸さんのお前は残れと言う声でこの部屋に残ることにしたようだ。
一緒にズルズルと引きずられる義丸さんを憐れみながら見送った。

「網問たちすごく心配してたぞ」
「……ごめんなさい」
「謝ることじゃねーよ。怪我、大したことないらしくてよかったな」
「はい……」

間切くんには面会禁止令が出てないらしく、網問くんたちから様子を見てくるようにと懇願されたらしい。

「あいつら、兄貴たちにすっげえ怒られてさ」
「……私のせい、ですよね」
「あ〜……違うからそんなに気負うんじゃねえよ。なまえがそんなだとあいつらもやり辛いだろ」
「でも……」
「私が助けてやったんだ!って威張るくらいで丁度いいんだよ」

間切くんはそう言うが、どうにも難しい。
消極的な態度が、東南風くんたちに気を遣わせているんだろうなぁ……と思うけれどどうしていいのかわからない。
だって、こうしないと怒られるから……。
……でも、誰に?

悶々と考えていると、お頭さんが開けっ放しになった扉の前から呼びかけてきた。

「間切来てたのか」
「あ、お頭」
「ああ、そのままでいい」

お頭さんは気をつかって出て行こうとした間切くんと、座ったままだと失礼だと思い立ち上がる私を止め間切くんの横に座った。

「体は大丈夫か?」
「あ、はい、大丈夫です」
「お頭、なまえにそう聞いたら大丈夫じゃなくても、大丈夫って言いますよ」
「それもそうか」

間切くんの言葉にお頭さんは、がははと豪快に笑い飛ばす。
アイツらも大丈夫じゃなくても大丈夫って言うがあれは医者が怖いだけだからなぁ、とその後に続けた。

「あの、お頭さん、ごめんなさい……迷惑をかけて」
「迷惑なんて思っちゃいないさ。それより、航を助けてくれてありがとうな」

お頭さんはそう言って深々と頭を下げる。

「そんな、頭をあげて下さい!私なんか何の役にも立ってなかったし、みなさんに怒られるばかりで……」

お頭さん直々に頭を下げられるなんてとんでもない事だと思い、慌てる。
本当に役に立っていなかったのだ、頭を下げられるようなことは一切していない。

「怒ったんじゃない、叱ったんだ。危ない事するから」
「でも……」
「まぁ、怒ってるのならそれは不甲斐ない自分にだな」

お頭さんは真面目な顔で言って横で間切くんがウンウンと頷いた。


(20181219)
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