(尾浜視点)
「はい、あーん」
「あの…久々知くん、自分で食べられるから平気だよ」
最近恒例になった、兵助の手作り弁当を食させられるなまえちゃんを横目で見つつ本日4個目パンを頬張る。
本当に楽しそうに給餌をする兵助と、断りきれず為すがままになっているなまえちゃんを見ているとなんだか可哀想になってくる。
「なあ、八左ヱ門」
「なんだ勘右衛門」
横で死んだ目をしながらデカいお弁当を突いている八左ヱ門に話しかける。
「あれ、どう思う?」
「……ツバメの親子だな、それかペンギン」
「なまえちゃん可愛そう」
「兵助お手製弁当だと肉食えないからな」
「そうじゃなくて…現実を見て」
4個目にメロンパンを持ってくるのは悪手だったか……と思いつつ、現実逃避をする八左ヱ門のお弁当の卵焼きを拝借する。
八左ヱ門の家の卵焼きは塩辛くて、メロンパンで甘々になったお口に丁度良い。八左ヱ門は人の弁当取るなよ〜と言っているが怒ってはいない。
「久々知くん、私は自分で食べれるから……久々知くんの食べる時間がなくなって午後の授業に響いたら大変だよ」
「俺は(なまえが美味しそうに食べる顔を見るだけで)お腹いっぱいだからいいんだ」
括弧の中が透けて見えるぞ久々知兵助。
当のなまえちゃんは気がついていないようで、尚も兵助のお弁当の心配をしている。
午後に体育があるだとか、その後にも部活があるだとか、八左ヱ門が援護射撃でなまえに心配をかけるのは違うだろ?と助け舟を出して渋々自分のお弁当を食べ出した。
「そういえばさ、来週の試合相手ってどこだっけ?」
お弁当を食べ終えた八左ヱ門がお茶を啜りながら聞く。
「わふへは」
「食うか喋るかどっちかにしろよ」
5個目のパンを咀嚼しながら答えるが八左ヱ門には聞き取れなかったようだ。「忘れた」と言ったので聞き取れたところでなんの情報もないのだけれど。
「来週試合なの?」
「そうなんだ!練習試合なんだけど、今回は2年が中心になるようにって立花先輩がな。今までも試合に出ることはあったけど2年全員でって今までなかったからな」
なまえちゃんが質問したら「よくぞ聞いてくれた!!」と兵助が生き生きと返答を返した。
「じゃあ久々知くんたちが試合するんだね、応援してるね!」
「なまえ……!」
にっこりと微笑んで頑張れとガッツポーズを送るなまえちゃんの手を兵助がとって真剣な顔をして言う。
「俺、なまえの為に絶対活躍するから」
「う、うん」
なまえちゃんは兵助に勢いに気圧されている。かわいそうに。
過去に立花先輩が「諸々の対応が面倒くさいので応援は無しだ」と言ったのでそれからはバレー部は応援は禁止となった。
応援と託けて偵察に来る奴がいたり、黄色い声援を贈る生徒がいたりして実際俺も面倒くさいとは思っていた。
(便乗して女子バレー部も応援禁止とか言ってたっけ。あっちは盗撮とかもっと面倒臭そうだったし)
あ、全国大会とかそういう公式な試合は別だけどね。
兵助は本当はなまえちゃんに見に来て貰いたいんだろうなぁと思うが、根が真面目なので先輩の言いつけは守る。
なまえちゃんもバレー部が応援禁止なのを伊作先輩経由で知っているのでそれについては何も言わない。
まあ、直接応援して貰えなくても今ここでなまえちゃんに応援してもらった兵助は俺の分まで頑張るだろう。
練習試合は楽に試合が進むだろう。俺は楽ができる時は楽がしたい。
「なまえ、今回の試合に勝ったら――」
「失礼する」
未だになまえちゃんの手を掴みながら何か言いかけた兵助を遮って保健室に立花先輩がやってきた。
「大木なまえは……いるな」
立花先輩は手を取り合う(実際は一方的に掴まれている)兵助となまえちゃんを見て一瞬固まったものの、ごほんとわざとらしい咳払いをして話を続けた。
「頼みたい事があって来たのだが、今時間は平気か?」
「は、はい」
こちらの都合を聞いてはいるが、有無を言わさぬオーラになまえちゃんは頷き、兵助はピャッと手を離した。
立花先輩のなまえちゃんに頼みたい事って一体なんだろう。接点があるとすれば彼女の叔父さんの大木先生くらいだけど……。
他のメンツも思い当たる節がないようで、頭にハテナを浮かべている。
「来週にバレー部の練習試合があるんだが、それに来て欲しい」
「「「え?」」」
「ちょっと待って下さい!どういう事ですか!?」
立花先輩の爆弾発言に、いち早くなまえちゃんのセコムが発動した。
試合の応援は立花先輩自ら禁止にした筈だし、立花先輩は兵助がなまえちゃんを信仰しているのを知っている筈だ。面倒になると分かっている事を引っ掻き回すタイプでもないし……。
「落ち着け兵助、これはお前にも利がある話だ。」
「ぐぬぬ…」
今にも飛びかからんとする兵助に一喝する。
「練習試合の応援は禁止なのにどういうことですか?」
「今度の試合相手にね、女子マネージャーもいない弱小バレー部とか、暑苦しいのしかいないゴリラの巣窟ってマウント取られたのが悔しくてやり返そうと思ったんだよね」
八左ヱ門の質問は後から部屋に入ってきた伊作先輩が答えた。
「ゴリラの巣窟って酷いですね……あれ?でもうちって『自分の世話も自分でできないのに、無関係な女子生徒にマネジメントさせようとしてまで部活をする性根が気に食わない!』ってマネージャー取らないってスタンスじゃないですか」
「そうなんだけどね〜」
伊作先輩は内緒話をするように俺と八左ヱ門に小さな声で続ける。
「多分相手はウチに女子マネがいたとして、その子がどんな子でもマウントを取ってくる筈だから、殺意の波動に目覚めた兵助を当てて二度とマウントが取れないようにしようっていう作戦なんだよね」
「あー……」
「なるほど……」
「そのためにはなまえちゃんが必要不可欠なんだよね。あ、これ内緒にしておいてね。なまえちゃんはベンチで座ってるだけでいいんだけど一応臨時マネージャーって事でお願いするから」
伊作先輩はそう言ってにっこりと笑ったが、自分は手を汚さずに兵助にやらせるのか……と、黒い部分が垣間見えた気がする。
当事者であるなまえちゃんは「バレー部ってしっかりしているんですね」などと呑気な会話を立花先輩としていた。
どう言いくるめられたかは知らないが、兵助は大人しく…いやむしろ上機嫌でなまえちゃんの横で座っていて、人知れず作戦が実行された事を知るのであった。
(20190107)
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