「男ってのは弱い生き物だからな、否定されるのが怖いから様子を見てるんだろ」
「なにそれ、女だって否定されるのは怖いんだけど?」
ポッポタイムに送ってもらう途中で、キス未遂事件(?)を雑賀さんに相談して帰ってきた答えに苦言を呈する。
「はは、それもそうだな。で、相手は誰なんだ?」
「誰だっていいでしょ!」
「照れるなって。なまえはどうでもいい相手は普通に切り捨てるだろ」
「まあ、そうだけど」
信号が赤から青に変わって、車が進む。
「ま、あれだ、そいつはズルい奴だな」
雑賀さんは前を見ながらポツリと言った。
「ズルい?」
「匂わせるだけなら拒絶された時は上手いこと誤魔化せるし、相手に気があれば意識させるキッカケになるだろう。そういう計算もしてるんだろうよ」
「そんな人じゃないと思うけど」
「そうやって庇うのは惚れた欲目だな」
「惚れっ……いや、うん……そうなんだろうけど…」
失礼だけれどブルーノがそういう事に頭が働くとは思えない。
しかし記憶喪失で、元はもしかしたら生粋のプレイボーイって可能性もある……。けれど私には、天然ボケで優しい青年にしか見えないのだ。
雑賀さんの言う通り、惚れた欲目っていうのもあるかもしれないけれど。
「ほらついたぞ」
「ありがと」
ポッポタイムの前で雑賀さんに降ろしてもらう。
いつも足になってもらって申し訳ないけれど、雑賀さんが仕事のついでに送ってやると言っているので遠慮せず甘えている。
マーサも甘えときなって言っていたし。
「じゃ、お前が惚れた相手によろしく伝えてくれな」
遊星のとこに転がり込んだデカイやつだろ?と、雑賀さんは帰り際に爆弾を落としていった。
名前を伏せて相談したのにバレている……!
別にバレた所でなんの支障もないけれど、雑賀さんからマーサに伝わって、遊星の時みたいにマーサに弄られるだろうななどと思いながらポッポタイムの扉を開けようとドアノブ手をかけるより先にジャックが出てきた。
「む、なまえか」
「あ、ジャックおはよう。どこか行くの?」
「決まっているだろ」
ジャックの口振りからあの高いコーヒーを飲みに行くんだな、と察したが文句を言っても効果がないから放置だ。
意気揚々と出て行くところを見ると、いつも怒るクロウもいないみたいだ。
「なまえは何しに来たんだ?」
「届け物をしにきたの」
「そうか」
そういうとジャックはポッポタイムの中に向かって、ブルーノ!と呼びかけた。
中からなぁに?と間の抜けたブルーノの返事が返ってきて、オイルで汚れた顔を覗かせた。
「あ、なまえ」
「ブルーノおはよう。また徹夜したでしょ?」
朝からオイルで汚れているということは夜通し作業していたという事で、それを指摘すると彼は困ったように笑った。
ブルーノに挨拶をしている間にジャックは「ブルーノ、こいつは任せたぞ!」と高笑いを響かせながら去っていった。
ポッポタイムの中を覗くと案の定クロウはいなくて、奥で遊星はキーボードを叩いていた。
「なまえ、今日はどうしたの?」
「マーサが食材とかを届けるようにって、あとこれからアキちゃんと買い物に行くの」
「アキさんと?」
「たまには女の子同士で遊びたいじゃない?」
そう言いながら冷蔵庫にマーサから届けるように言われた食材を突っ込んでいく。
ブルーノも手伝ってくれて戸棚にカップ麺をしまっていく。
(カップ麺は賞味期限がギリギリのやつをマーサに押し付けられたんだけど、男4人の生活なら一瞬で消えるだろうから問題ないだろう)
それからタオルを2つ拝借して濡らして電子レンジを使ってして蒸しタオルを作る。
「ブルーノ、こっち来て」
何をしているのかと興味津々に後ろをついてきていたブルーノを呼び止めて、彼の顔を蒸しタオルで拭く。
「顔汚れてたよ」
「え、あ、うん、ありがとう」
唐突に顔を拭いたので驚いて固まるブルーノを見て、この間の仕返しをしてやろうという悪戯心が湧いてきた。
「カッコいいのに顔に汚れがついてたら台無しじゃない。まぁ、そういうところも嫌いじゃないけど」
「え」
「なんてね」
誤魔化して遊星のところへ逃げる。
なんてね、だなんて誤魔化したけれど、ほんとは冗談でも嘘でもない。
けれどまだ、もう少し一歩も踏み出せないままの生温い水みたいな関係でいたい。
それから遊星の徹夜したであろう眼精疲労とクマに蒸しタオルでダイレクトアタックを決め、アキちゃんの家へ向かった。
トップスってサテライトと違ってどこもかしこも綺麗だから萎縮しちゃう。
アキちゃんの家に行くと、アキちゃんのお母さんが盛大にお出迎えをしてくれて、アキが女の子の友達を連れてきてくれた!と大いに盛り上がりそれをアキちゃんが恥ずかしそうに制止していた。
「なまえ、騒がしくてごめんなさいね」
「ううん、いいお母さんじゃん……アキちゃん、家族に戻れてよかったね」
「ええ、遊星達のおかげ」
アキちゃんは過去を思い出しているのか遠くを見て少し辛そうな顔をした。
あまり詳しい話は聞いていないけれど、大変だったみたい。
「遊星と言えば、アキちゃんはその辺どうなの?」
「えっ!?」
アキちゃんに辛い思い出を思い出してもらいたくないので、すかさずに話題を変える。
サテライトではしたくてもできなかった恋バナというやつだ。
「マーサがアキちゃんと遊星はお似合いよね〜って言ってたし私もそう思うんだけどな〜」
「もうなまえったら揶揄うのはやめてよ」
「うふふ〜」
態とらしく笑うとアキちゃんもつられて笑った。
「私ね、こうやって恋バナとか出来る友達いなかったからアキちゃんと友達になれて本当に嬉しいな」
「私もよ、なまえありがとう」
それからお互いにたわいもない話をしていると、アキちゃんのお母さんがそろそろ買い物に出たら?と本来の用事を思い出させてくれた。
今日はアキちゃんと一緒に買い物をするために集まったのだ。目的を忘れたらいけないわよねと慌てて準備して家を飛び出した。
「ブルーノと遊園地ってデートじゃない」
「龍亞達の付き添いだからデートじゃないです〜」
「でもそのために洋服を買うんでしょ、ねえ、なまえってブルーノの事好きなの?」
アキちゃんと一緒に洋服を見ながら会話をしていると、アキちゃんが核心を突いてきた。
「な、なんで」
「なんでって……私最初なまえはジャックの事が好きだと思ってたんだけど、ただの世話焼きだったのよね。でも最近そのジャックより手のかからなそうなブルーノの世話ばかり焼いてるから」
「ジャックが手のかかる子ってのは異論はないけど、私そんなにブルーノの世話を焼いてる?」
「焼いてる」
「うう…」
異論を返せないほどズバリと言われてしまい、口籠る。
ハッキリと認めてしまうのはやぶさかではないけれど、好きだと口に出すのは恥ずかしい。
それに、誰にも話してはいないけれどブルーノと同じくらい気になっている人がいるのだ。でも会える確証はないし……。
「……あのね、アキちゃん」
「なあに?」
誰にも言わないでね、と釘を刺して意を決して話し始める。
「私、ブルーノの事が好きなんだけど……でも、プレミアイベントで遊星と戦った人も同じくらい気になってるの」
「……そう」
「でもその人とはいつ会えるかわからないし、2人も気になってるなんて変だよね」
「変かどうかはわからないけど、ミスティなら思うがままに行動するといいわって言うわねきっと」
世界的に有名な女優さんなら恋愛も引く手数多で経験豊富なんだろうなぁ。
プレミアイベントで出会った謎のDホイーラー。
そんな彼が夢までに出てくるなんて気にならない方がおかしいのだ。
「あっ、これ似合うんじゃない?」
アキちゃんは青いワンピースを持ってきて私の手に乗せた。
試着してみてよ、という無言の圧を感じた。
うう、後で遊星の好きそうな服をアキちゃんに着させてやる。
(20190118)
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