肩の痛みも大分引いて、お医者様の許可も降りていつも通りの生活を送れるようになった今日この頃。

面会許可が出た当日に航くんたちに盛大に謝られて、でも謝って貰いたいわけじゃなくて、というか謝ってもらうことじゃないし許すとか許さないとかそういう問題じゃ……と思って固まっていたら義丸さんが助け舟を出してくれた。
なんでも海の男のケジメを付けたいらしい。
義丸さんの提案で、1番駄々をこねていた航くんのお夕飯のおかずを一品私に提供する事で手打ちとすることに……。
けれどそんなに食べられないので結局、他の人の所へ回っている(これはただ単純に航くんのおかずが減っただけじゃないのかな)
食べ盛りの男の子のおかずが減るというのは大分可愛そうなので、私の傷が治るまでと提案したら、疾風さんに「なまえは甘いなぁ、何もせず一品増える他の奴らがガッカリするぞ」と笑われた。
お医者様は「無茶すると傷の治りが遅くなるので大人しくしているんですよ」と会うたびに私に言い、東南風くん達にはなまえが無理しないように見張ってろと言っていた。



手持ち無沙汰なので、いろんなところのお手伝いを申し出たけれど怪我人は大人しくしてろと全て追い返され最終的に行き着いた出入り口の掃き掃除をしていると、おばあさんに呼び止められた。

「第三共栄丸はいるかい?」
「えっ、あ、えっと……」

おばあさんは体格が良くてハキハキと喋り、悪い人には見えないけれど……(あと、失礼かもしれないけれど魚のアンコウに似ている。)
こういう時にお頭の所在を言っていいものなんだろうか……。
どう対応しようか困っていたら、おばあさんはそんな私に痺れを切らして自分で探すと言いズカズカと水軍館の中に入っていく。

「あっ、あの……待ってください!!」

もし悪い人だったら大変!と言っても本当に悪い人だったら私に止められるわけがないのだけど、それでも止めないと!
おばあさんの後を慌てて追いかける。

「なんだい?」
「えっと、その…」

おばあさんを引き止めたものの何て言っていいのかわからない。
言葉に詰まって困っているとおばあさんは「見られて困るものがあるならアンタが案内しておくれよ」と、おばあさんは私を俵のように担ぎ(それも軽々と)水軍館の中をズンズンと進んでいく。
当の私は軽くパニックを起こして案内どころではない。
おばあさんに俵の如く持ち上げられて、水軍館の中を進むなんてどういう状況!?
お頭の部屋に着く前に、うろうろしていたお頭に出くわした。

「おっ、ばあさんじゃないか!なんだ、今日はなまえが被害者か」

担がれた私を見てお頭さんはワハハと笑う。
おばあさんは私を下ろしてお頭さんと話をする。

「海の女なのにこんなにガリガリで、飯を食わせてやってるのかい!?」
「いやばあさん、なまえは……」

お頭さんは私のことを軽く説明して(捨てられたかわいそうな子犬って言った……)おばあさんは訝しみながらも納得して、会話は別の方向へと向かっていった。
それから「浜辺」「赤髪」「勝負」という単語が聴こえて、関係ない私が話を聞くのもなぁと思い、コソコソと退場しようとしたところでお頭さんに呼び止められた。

「なまえ、舳丸呼んできてくれ。浜辺に居ると思うから」
「は、はい、わかりました」

お頭さんとおばあさんに会釈をしてから浜辺へと向かう。
もうすぐ日が沈む。



浜辺へと足を進めたのはいいけれど、誰もいない。
お頭さんは浜辺に居るって言ってたけど……と辺りを見回すと岩場の方から波の音に混じってポチャンと何かが水に落ちる音がした。
それも一回だけではなく規則的に間隔を空けてポチャン、ポチャン、と音は続いた。
一体なんだろう……?
岩場の方へ足を運ぶと、海に向かって石を投げる舳丸さんがいた。
岩場は足場が悪く、苦労しながら進む。
体力も運動神経もないことを思い知らされる。ここに来てから(本当に少しだけだけれど)体力はついてきた思ったんだけど……。

舳丸さんは悪戦苦闘しながら岩場を進む私に気がつくと、石を投げるのをやめて、私が苦労して進んだ岩場を軽々と渡って私の所へ来た。

「なまえ、どうしてここに」
「お頭さんに、舳丸さんを呼んでくるように言われて」
「お頭に……」

舳丸さんはそう呟くと、考え込むように黙ってしまった。
波の音だけが辺りに響いている。
海は夕日の色を受けて赤く輝いていて、海ってこんな色になるのかとぼんやりと思った。

「あの、えっと、おばあさんが来ていらしたので多分その関係かと」
「おばあさん?」

舳丸さんはまた黙り込んでしまう。
沈黙が辛い。

「……その人、アンコウに似ていなかったか?」

黙り込んでいた舳丸さんはポツリとそう聞いてくる。
魚に似ているというのもどうなんだろう、と思いつつコクリと頷いた。


(20190221)
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