「入り口の掃除をしていたらおばあさんに会って、えっと、そのおばあさんにお米みたいに担がれてしまって……そのままお頭さんのところまで連れていかれたんですけど……」
あまり喋らない舳丸さんとの沈黙が辛くなって、喋るのは得意ではないのにベラベラと纏まりのない話を一方的にしてしまい自己嫌悪に陥る。
こんな時、網問くんみたいな物怖じしない人好きのする性格だったらこんな慌てる事もないのかな……。
「おばあさんに担がれた?」
突拍子もない話を舳丸さんは訝しむものの「……あのおばあさんなら、なまえを担いでも不思議はないが」と納得していた。
舳丸さんもおばあさんを知っているようだし、やっぱり怪しい人じゃなかったのか……疑ってしまった事を少し反省する。
「あのおばあさん、元気で強くてすごいですよね。……やっぱり、お頭さんの知り合いの海の女はあれくらい強くないとやっていけないんですかね?」
「……彼女は例外だと思うが」
「でも、やっぱり、私があのおばあさんくらい強かったらみんなに迷惑かけることも……」
あのおばあさんくらい強ければ、航くんを庇って撃たれるなんてなかったんだろうなぁと思う。
私が貧弱そうだから狙われて東南風くんたちに迷惑をかけたりする前に、山賊を千切っては投げけちょんけちょんに……できるわけがないのだけど……。
それでも、捕まったりする事はなかったと思う。
「……私が弱いから、あの時捕まってしまったんです。東南風くんや白南風丸くんに申し訳ないです」
しょんぼりとする私に舳丸さんは呆れながら言う。
「なまえまであんなに強くなられたら困る」
「えっと……?」
その言葉の意図を測りかねて聞き返すと、普段の顰めっ面からは想像できないくらい優しく笑って「お頭が泣く」と言った。
それから踵を返して岩場をスイスイと降りていく。
慌てて追いかけようと岩場を降りる。が、苦労して渡った岩場を舳丸さんと同じように軽々と帰れるわけもなく、脚がもつれてしまう。
転ぶと思った次の瞬間には、舳丸さんに受け止められていた。
「貧弱すぎるのも問題だな」
「あ、え、えっと、ごめんなさい……」
「すぐ謝るのも悪い癖だ」
「ごめんなさ…あっ、えっと、その……」
そのまま手を離すのかと思ったが、舳丸さんは一考してから私を先程のおばあさんと同じように俵のように担いた。
「えっ、舳丸さん!?あの……!」
「こっちの方が早く戻れるから我慢しろ」
私を担いだまま、軽々と岩場を渡り足早に浜辺を歩く。
自分で歩けると言おうものなら、喋ると舌を噛むぞと抗議すらさせて貰えない。
「あっ!兄貴がなまえをお米様抱っこしてる!!」
「お米様抱っこってなんだよ」
「え、間切知らないの!?」
館に戻ると網問くん間切くんに見つかり、2人はお米様抱っこについて議論を始めた。
舳丸さんはそれを軽くスルーして網問くんの言うところのお米様抱っこをされたまま、お頭の部屋に向かう。
「これ、お米様抱っこって言うんですかね?」
「…聞いたことないな」
結局館に戻っても降ろしてもらうことはなく、
部屋に向かう曲がり角で航くんと重くんの17歳コンビと鉢合うと、航くんはギョッとした顔をしてこちらに詰め寄ってきた。
「なまえ!?またなんか怪我したのか!?」
「兄貴、どうしたんですかそれ」
一方の重くんは冷静に(けれど若干面白がりながら)舳丸さんに疑問をぶつける。
「お頭のところへ連れてく」
舳丸さんは若干面倒臭そうに一言だけ返事を返した。
予想はしていたが、このままお頭さんの所に行くのか……。
そのままスタスタと歩き、呆気にとられ残された2人は呆然と立ちすくしていたが、航くんはハッと我に返って
「怪我してないよな?!」
と、お米様抱っこで連れて行かれる私に向かって叫ぶ。
そういえば、怪我の有無を答えてない。
「け、怪我はしてないです!」
それだけ答えるのが精一杯で、無情にも舳丸さんに運ばれる。
人を1人運んでスピードが落ちないのは、流石海の男だなぁと現実逃避しながらお頭の部屋の前までやってきた。
「お頭、舳丸です」
「おう、入れ」
部屋の前で声をかけると、すぐにお頭さんからの返事が返ってきて、舳丸さんはそのまま扉を開ける。
「なんだ、またなまえは担がれてるのか」
「不可抗力です……」
担がれた私を見てお頭さんは豪快にガハハと笑う。
「お頭、おばあさんはどこに?」
「ばあさんなら帰ったよ」
「……そうですか」
舳丸さんはおばあさんがいないと分かると明らかに落胆した様子で私を降ろした。
「なまえ、舳丸を呼んできてくれてありがとうな」
「呼んできたというか、なんというか……」
ははは、とお頭さんは笑う。
そんなお頭に舳丸さんは話を促す。
「お頭、私に何か用事が?」
「あ、いや、あのばあさんにあったのなら落ち込んでるかと思ったらな」
お頭は舳丸さんの顔をまじまじと見て、一呼吸置いてから言う。
「でも、その様子じゃ大丈夫そうだな」
「ええなまえのお陰で」
「……私?」
舳丸さんがおばあさんに会って落ち込んでいるというのが、全く想像ができないというか、話が見えない。
そんな中、突然私の名前を出されて困惑する。
お陰で…って私何もしてないけれど……。
心当たりがなさ過ぎて寧ろ逆に何かやらかしたのでは……?と、悪い方へ考えてしまう。
「なまえ」
「は、はい」
舳丸さんに名前を呼ばれる。
「あのおばあさんに負けはしたが、お前1人守れない程弱いとは思っていない。それは此処にいる奴ら全員そうだ。」
「えっと……」
「だが、まだ上には上がいる。それが分かっただけで十分だ。」
そう言う舳丸さんの目は力強く、信念のようなものを感じた。
「ではお頭、失礼します」
それだけ言って、舳丸さんは部屋を出て行く。
残された私とお頭さんは最初こそ呆けていたが、
若いっていいなぁ、青春だなぁとお頭さんが呟いた。
(20190309)
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