「なまえちょっと待ちな」
アキちゃんに選んで貰った青いワンピースを着て、雑賀さんを足にポッポタイムへと向かおうとしたらマーサに呼び止められる。
「折角お洒落してるんだから髪型くらいしっかり整えたらどうだい?」
「え、でも」
「ほら、いいからこっち来な」
その一声で、マーサに鏡台の前に座らされ髪をセットしてもらうことになった。
そんなにボサボサなつもりはなかったんだけど……。
マーサに髪を梳かしてもらうのは随分久しぶりで、幼い頃ジャックに髪をぐちゃぐちゃにされた時にこうやって梳かしてもらったっけ。
「ほらできた」
「ありがとうマーサ」
ポッポタイムに向かう車の中で雑賀さんは「マーサも娘同然ななまえの世話を焼きたいんだよ」と言った。
今日は龍亞たちと遊園地に行く日だ。
ポッポタイムに行くと遊星が出迎えてくれた。
遊星は服について何も言わないが、ジャックだったら目敏くこのワンピースに気がついて「馬子にも衣装だな!」と言うだろうなぁ。
その点クロウは優秀で、気付いた上で良ければ良いと言ってくれる(悪い時もズバッと言うが……)どうしてあの子に浮ついた話が1つもないのかが不思議である。
「ブルーノは?」
「ん、ああ、ブルーノならゾラのところだ。家電を直したらすぐ戻ってくると思う。」
「そう」
ソファーに座りブルーノのことを待つ。
龍亞と龍可達は現地集合すると言っていたので、ブルーノと一緒に交通機関を使い遊園地へ行くつもりだ。
雑賀さんの手伝いでシティ内を連れ回されているので、旧サテライトに住んでるけれど記憶喪失のブルーノよりは土地勘がある(と思う)
机に置いてあった月間Dホイールという本をパラパラと読んでいるうちにブルーノが帰ってきた。
「あ、なまえ!ごめん!すぐ準備するね!」
準備と言っても手に持った工具セットを置いてくるだけなんだろうな……それならすぐに戻ってくるだろうと見当を付けて立ち上がる。
ブルーノは予想通りすぐに戻ってきた。
「遊星行ってくるね!」
「ああ、気をつけてな」
遊星に挨拶してからブルーノと2人でポッポタイムを出る。
「待たせちゃってごめんね」
「そんなに待ってないから平気だよ、ゾラのとこの家電直してたんでしょ?」
「うん、そうなんだ。その時ちょうど遊星がいなくて僕が代わりに」
「すごいね」
比較対象の遊星がなんでも出来る子だからみんな何も言わないけれど、ブルーノも相当優秀だよね。
バス停はポッポタイムからそう遠くなく、お喋りしながら歩いていたらすぐに着いた。
バスが来るまであと5分、丁度良い時間だったようだ。
時刻表と睨めっこしていると、ふと視線を感じた。
視線の主はブルーノでこちらをジッと見ている。
「ブルーノ?」
「あ、いや、えっと……」
「ん?」
どうにも歯切れが悪い。
仕方ないのでブルーノが切り出すのを大人しく待つ。
「……今日、とっても可愛いね」
彼が照れながら言うものだからこちらまで照れ臭くなってしまう。
こっこれはあくまで龍可たちと遊園地に行くのに大人っぽくなるためにこのワンピースを着ただけで、
べべべ別にブルーノに見せる為じゃないし、メイクだっていつもより丁寧にやったわけじゃないんだから勘違いしないでよね!!!
などとツンデレじみた言い訳が頭の中を通り過ぎるものの、そんなこと言える訳もなく
「あ、ありがとう……」
ぎこちなくお礼を言うだけになってしまう。
ブルーノは言うだけ言って満足したのか、私に反応に満足したのかはわからないがいつもの調子でニコニコと笑う。
なんだか毒気を抜かれて、私だけこんなに動揺しているのがバカらしくなるじゃないかと心の中で毒突く。
「……もしかして、揶揄ったの?」
「えっ、ち、違うよ!僕は今日のなまえはなんだかすごく可愛いなって……!」
冗談めかして少し拗ねた態度を取るとブルーノは慌てて弁解を始める。
可愛いだとか、そのワンピースが似合ってるだとか、ブルーノが揶揄っていないと誤解されないように必死に口を開いているとバスが来た。
「ブルーノ、バス来たから乗るよ?」
聞いてて恥ずかしすぎて居た堪れなくなってブルーノの弁解を遮ってバスに乗り込む。
「なまえってばひどいよ〜」
ひどいとは言いつつも彼は笑っていて、
その姿が愛おしくて、ああ、やっぱり
「……好きだなぁ」
「え?何か言った?」
「っ!」
ブルーノには聞かれてなかったものの、どうやら口に出していたみたいだ。
慌ててなんでもないと言って席に座る。
バスには数えるほどしか人が乗っておらず、すんなりと座ることができた。
「楽しみだね、遊園地」
「保護者役だけどね、でも行ったことないからすごく楽しみ」
流れる景色を見ながらブルーノと2人でバスに揺られる。
私にDホイールが乗れたらDホイールで行っていただろうけど、こうやってバスに揺られるのも悪くない。
信号待ちでバスが止まった際に、道端に停めてあるDホイールを見かけた。たしか、さっき流し見した雑誌で見たような。
「あ、あのDホイール、雑誌で見たやつ」
「えっ、どこ!?」
「あっちのほう」
窓の方を指差したら、ブルーノは私を後ろから抱え込むような体制で窓の外を見た。
確かにこうしないと窓の外は見えないけど……。
これじゃあまるで抱きしめられてるみたいだと意識して心臓がドキドキと大きな音を立てる。
「あ、あれか!うわぁ、あのコーティング艶が違うなぁもしかして新しく出たやつかな、中の方も見てみたいけど……あ、あれ今までのパーツと違うなぁ性能もよくなってるんだろうけど実際に見てみないことには……」
当の本人はそんな事気にもせず、Dホイールに夢中だ。
そんなブルーノに無言で寄りかかる。
「……」
「なまえ?」
ブルーノは一度私の方を見たけれど、私がなにも言わないのでそのままの体制で窓の外を見た。
信号が青に変わってバスが発進する。
(20190330)
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