(立花視点)
他所の学校の奴等にくだらない事でマウントを取られるのは別に構わないが、
黙っているとエスカレートしてきてウザ……面倒くさ……いや、大ごとになってしまい外交問題に発展してしまうと大変なので対策をとることにした。
しかも自らが手を下さない方法で。
「そこに座ってるだけでいいからな」
「あの、でも」
「キミを働かせでもしたら兵助が五月蠅い」
3日後に迫った練習試合の前に顔合わせの為に大木なまえを部活に呼び、椅子に座らせ見学させる。
彼女は座って見学しているだけと言うのが落ち着かないのかソワソワそしている。
私は監督だから練習には参加しないのでその隣に座る。
なまえがやってきて色めきだった1年に兵助が盛大に威嚇をしていて可哀想だった。
2年、3年は兵助のモンペぶりを知っているのでそんな自殺行為はしない。
まぁ知っていて、我々はそれを利用しようとしているのだが……。
なまえが見ているからか、兵助は小平太のアタックを全部受け切りなまえの元へ駆け寄る。まるで犬だな。
「なまえ!!見てくれたか!?」
「う、うん。久々知くんすごいね!!」
なまえは兵助の勢いに押されながらも素直に褒める。
まあ私もアレは素直にすごいと思う。
私だったら小平太のアタックは絶対に受けない。
「立花先輩、絶対に、絶対に、なまえを悪の手から守ってくださいよ」
「……ああ、任せろ」
悪の手ってなんだ?と思いつつ適当に返事を返す。
その返事に満足した兵助は、練習に戻っていく。
「立花せんぱーい!外周終わりましたぁ」
兵助と入れ替えに喜八郎がやってくる。
「他の1年は?」
「潮江先輩に捕まりましたー」
何事も問題がなかったかのように軽い調子で返事をした喜八郎はなまえの横にストンと座った。
「どちら様です?」
座ってからなまえに気がついた喜八郎は、なまえに尋ねる。
ミーティングの時に説明した筈だが、聞いていなかったのか……。
「説明しただろ、臨時マネージャーだ」
「あ、そういえばそんな話してましたね〜」
喜八郎はよろしくおねがいします〜と気の抜けた挨拶をして握手を求める。
「少しだけだけど、こちらこそよろしくね」
なまえの方も、嫌な顔せずに快く握手に応じる。
そしてお互いに軽く自己紹介をした。
兵助の熱い目線が気になるが、口を出してこない辺りまだ許容範囲らしい。
「喜八郎くんって、バレー以外に何かやってるの?」
「何故ですか?」
「えっと、深い意味じゃないんだけど、かなり手がしっかりしてるから」
なまえは握手をした際に喜八郎の手のタコが気になったようだ。
言葉足らずで誤解を受けやすい喜八郎の代わりに答える。
「ああ、喜八郎は落とし穴を掘るのが趣味なんだ」
「落とし穴?それは、シャベルとかスコップとかで掘る感じの?」
「そうでーす」
へぇ、そうなんだ。と特に訝しがる様子もなく彼女は普通に受け止める。
喜八郎もその態度におやまぁと軽く驚いていた。
今まで出会った人は趣味が落とし穴掘る事と言えば、皆驚くか引くか困惑する。(かくいう自分も多少は困惑した)
そのうちに文次郎に捕まっていた1年が帰ってくる。
予想していた事だが、皆げっそりとした顔をしている。
「「喜八郎!1人だけ逃げるなんて狡いぞ!」」
そんな中、滝夜叉丸と三木ヱ門が怒り心頭といった具合で喜八郎に詰め寄った。
この2人は元気だな。
「あっ、なまえ先輩!喜八郎が迷惑をかけていませんか??落とし穴に落ちたりとか…」
「ううん、迷惑なんて全然かけられてないよ。落とし穴についてはよくわからないけど、落ちたことないよ」
「そうですか、よかった」
喜八郎の隣に座っているなまえを見て、滝夜叉丸が話しかける。
「喜八郎に迷惑をかけられたらすぐに言ってくださいね!」
「なんで僕が迷惑をかける前提なのさ」
三木ヱ門も参戦し、一緒になって喜八郎の動向に注意するように言う。
普段いがみ合っている2人だが、喜八郎が絡むと息が合っているというか、なんだかんだでいいトリオなのかもしれない。
「…そういえば、なまえは保健委員だったな」
「はい、保健委員です」
「「なまえ先輩、保健委員なんですか!?」」
不運委員もとい保健委員ということに、三木ヱ門と滝夜叉丸は驚く。喜八郎も声に出さないものの目を丸くしている。
「伊作先輩と同じ委員会なのに落とし穴に落ちないなんて……」
「あり得ない……」
信じられないといった様子で2人は呟く。
保健委員といえば不運が付き物で、喜八郎の落とし穴に必ずハマるがお約束だが、どうやらなまえは違うらしい。
落とし穴の存在を知らなかったのだから、一度も落ちたことがないのだろう。
当の伊作は、奥の方で留三郎を巻き込みながらすっ転んでいる。
「なまえ先輩は不運じゃないんですか?」
「喜八郎!」
喜八郎が歯に衣着せぬ物言いで尋ねる。それを滝夜叉丸が咎めるが対して効いていないようだ。
確かに保健委員であれば、今まさにボールが飛んできてもおかしくないが……そういうこともない。(伊作にはほぼ毎日ボールが飛んできている)
「不運?運は悪くないと思うけど?」
キョトンとした顔で返した返事は強がりでも見栄っ張りでもなく、本当に不運ではないらしい。
「日頃の行いですかねぇ?」
のんびりとした声で喜八郎が返す。
それではまるで伊作(と留三郎)の日頃の行いが悪いみたいではないか。
(20190514)
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