「おはよう、なまえ」

今日は学校はお休みだけれど、バレー部の練習試合があるのでいつも通りに家を出るとジャージ姿の久々知くんがいた。
あれ?デジャヴ?
きっとバレー部でお迎えを頼まれたんだろうなぁ……前も家にお迎えに来たし家を知ってるってことで久々知くんが選ばれたんだと思う。
久々知くんの家は反対方向なのに大変だなぁ。

「やっぱり、同じジャージでもなまえが着ると神聖なものに見えるな……今日一番最初に見れて尊さが爆発しそう」

たまに久々知くんは変なことを言う。
久々知くんの艶々した黒髪に朝日が当たってキラキラと眩しい。

「久々知くん朝からうちにお迎えなんて大変だね」
「いや、好きでやってる事だし、朝から天使が見られるなんて役得じゃないか。それに、わざわざ学校が休みなのに出向いてもらうなんて……いや、俺的にはなまえに試合を見てもらうのは最高なんだけれど……立花先輩ありがとう」

慰労の意味を込めて言うと、その倍の熱量で返事が返ってきた。
久々知くんの荷物を持つよという申し出を断って、学校への道を2人で並んで歩く。








「兵助、なまえちゃんおはよ〜」
「なまえは朝から(兵助に捕まって)大変だな」

体育館に着くと尾浜くんと鉢屋くんが自主練をしていた。
みんなすごいなぁ、と改めて思う。
久々知くんも尾浜くんも鉢屋くんも人とも成績優秀で通ってるし、こんな風に勉強も部活も両方頑張ってしかも優秀っていうのはすごいなぁ……。

「兵助」

鉢屋くんが久々知くんにボールを投げる。
久々知くんは、カバンを背負ったまま軽々とボールを打ち返した。
ボール綺麗な放物線を描いて鉢屋くんの元へ戻っていく。

「わぁ、久々知くんすごいね!」
「え、いやぁこれくらいは……」

綺麗に鉢屋くんの腕に収まったボールを見て久々知くんに声をかける。
久々知くんは照れてるのか、頭を掻きながら謙遜する。
すごいと思うんだけれどなぁ……。

「なまえー、褒めると兵助は調子にのるからやめろー」
「2人とも荷物置いてきなよ、雷蔵たちが来るまであそぼ〜」

鉢屋くんから抗議の声が上がり、尾浜くんはマイペースに話を進める。
もしかしたら自主練じゃなくて遊んでただけかもしれない。
今日の準備担当は2年生で、全員揃ったらポールやらネットやらを準備するらしい。

しばらくして不破くんと竹谷くんが体育館に来て、5人で準備を始める。
久々知くんに手伝おうか?と聞いたら、「天使にそんなことさせられない!」と返ってきた。
手持ち無沙汰なので、鉢屋くんに何かすることある?と聞いたら“猿でもわかるバレーボール”という本を渡された。

「それ適当に読んでて」
「あ、うん」

隅っこで鉢屋くんに渡された本を読む。
……この本全部の漢字に読み仮名振ってある。
バレーは授業でしかやったことないから、多分簡単なルールを覚えろって事だよね。

あとで聞いたらこれはルールがわからないであろう私に貸す為の本を不破くんが迷いに迷って(最終的に鉢屋くんが)選んだ本らしい。
1番簡単なものにしておけば基本的なルールはすぐに覚えられるだろう、とのこと。
この手の本って猿はバレーとかしないよね、とも思わないでもない。


「「おはようございます!」」
「おはようございま〜す」

体育館の準備が出来た頃、田村くんと平くんと綾部くんが元気な挨拶をしてやって来た。

「何読んでるんですか〜?」

綾部くんがひょっこりと本を読む私の前に顔を出した。

「えっとね、バレーの本なんだけど――」
「あ、綾部!来て早々なまえに絡むな!!」
「早い出動ですね、セコム先輩……」

久々知くんがダッシュでこちらに来ると、綾部くんはうんざりした表情でボソリと言う。
遠くでその様子を見ていた鉢屋くんが噴き出した。

「セコムじゃなくて久々知だよ、綾部くん」

綾部くんの間違いを訂正すると、鉢屋くんに続いて尾浜くんと竹谷くんが盛大に笑い崩れた。
えっ、何事?と思い周りを見ると、綾部くんはポカンとした顔をしていて、田村くんと平くんは笑いを堪えている。
不破くんは苦笑いで、久々知くんは「天使の優しさはこの世界で1番なんじゃないか?」と訳の分からない事を言っている。

「なまえ先輩って……アホですか?」
「「喜八郎!!」」

悪口かな?
綾部くんのストレートな言葉に田村くんと平くんが一緒になって謝る。

「それは初めて言われたかも」
「そうですか」

悪口というよりは、確認と言った口調で言うので特に気にしなかったけれど、久々知くんは違うようで綾部くんのほっぺを引っ張りながら

「綾部、なまえに酷いことを言うな!」

と、綾部くんを叱った。

「いたいれふ、しぇんはい」
「久々知くん、私は大丈夫だよ!綾部くんも悪口のつもりで言ったんじゃないもんね?」
「ひゃい」
「なまえがそう言うならいいけど……」

久々知くんはそう言って綾部くんのほっぺから手を離す。
引っ張られたほっぺをさする綾部くんを、今度は田村くんと平くんが注意する。

「先輩にアホとか言うなアホ八郎ー!」
「そうだぞ!なまえ先輩が誤解して嫌な気持ちになって帰ったら立花先輩に怒られるぞ!」

それを見て尾浜くんが「やばい、やっぱりなまえちゃんも一年生もみんな面白い」と呟いた。


(20190709)
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