「WRGPのプレミアイベント?私も行っていいの?」
「行っていいも何もそもそも参加自由だし、何よりうちのチームのエンジンの開発を手伝ってくれてるじゃねえか」

Dホイールの調整を手伝っている私の横でクロウはあっけらかんと言う。

「でも、ドレスコードとか…」
「そんなの気にしなくたって平気だって!」
「…気になるならアキに借りればいい」

その横でエンジンの試作をしていた遊星も会話に加わる。今ここにジャックはいない。しかしそれはいつものことなので誰も気にしていない。
アキちゃんと私ってスタイルがかなり違う気がするけど…(特に胸元とか)…普段着で行くよりいいよね。優しいアキちゃんならきっと貸してくれるだろう。

それが3日前の出来事。




「アキちゃん、衣装ありがとう」
「ううん、いいのよ気にしないで」

アキちゃんに借りたドレスを来て2人で並んで歩く。
サテライト出身だから、というわけではないがヒールには縁遠くかなり歩きづらい。
アキちゃんは遊星が誘拐された後から時折なにか考え込んでいるみたいだけど高いヒールでも優雅に歩いている。
(育ちの違いってやつかな…)
会場の入り口で龍亞と龍可、そしてDホイールで来た遊星とクロウと合流する。

「あれ?ジャックは?」
「先に行くって早々と出てったぜ」

クロウはやれやれと肩をすくめて答える。人様に迷惑をかけてなければいいんだけど…。
マーサハウスのいた頃に3人の姉代わりをしていた身としては心配になる。


「私、心配だからジャックを探してくるね」

そう言って会場内でみんなと別れた。



コツコツとヒールを鳴らし会場内を歩く。
ジャックは背が高いからすぐ見つかると思うのだけど…。
キョロキョロと辺りを見渡して歩いていたせいか、酔って足元が覚束ない人とぶつかってしまう。

「きゃっ!」

いつもの靴だったら踏ん張れてたのだろうけれど、今日はヒールでしかも借り物。重力には逆らえず倒れるしかない。
来たる衝撃に備えて身を硬くし目を瞑るが、何ともない。
どうやら後ろで誰かが支えてくれたようだ。
(大きな手、ジャックかもしれない。あの子は高慢だけど優しいから。)
急いでぶつかった人に謝らないと、そう思って目を開けるが誰もいない。
(…あれ?)
後ろを振り向くと、赤いサングラスにスラリと高い身長、近未来的な青を基調としたレーシングスーツ。
ジャックではなく知らない人だった。


「大丈夫か?」

低めの落ち着いた声で問われる。

「大丈夫です。助けて下さってありがとうございます。」

急いで体制を整えてお辞儀をする。感謝は大事だとマーサは口を酸っぱくして言っていたのを思い出した。
見たことないけれど、どこのチームの人なんだろう…。

「怪我がないなら良かった。それでは失礼する」

男性はそう言うと、方向転換して人混みに紛れてしまう。

「あっ!せめて名前だけでも…ってもう行っちゃった…」

キョロキョロと辺りを見渡すと視界の端にジャックを捉えた。
探してた、探してたけど…!もう赤いサングラスの人は見当たらない。

気分を切り替えてジャックの元へ向かう。この会場内にいればいずれ会えるだろうし…。
ジャックは見たことない下ろし立ての服を着ていた。

「ジャック!」
「なんだなまえか」
「なんだじゃないよ〜!その服どうしたの」
「ああ、これか。この日のために仕立てたに決まってるだろう」
「また無駄遣いばっかして!私も怒るけどクロウにも怒られるよ〜」

そんな話をしながら遊星達と合流する。案の定ジャックはクロウに怒られていた。


副長官の話を聞き流しながら赤いサングラスの人を探す。
あんなに目立つ人なんだからすぐ見つかると思ったんだけど…。

「なまえ姉ちゃん何探してるの?」
「ん〜ちょっとね〜」

龍亞とそんな話をしていた時、世紀末なDホイールが窓ガラスを割って乱入してきた。
慌てて近くにいた龍亞と龍可を守るように抱きしめる。
その際飛んできたガラスの破片で足を切ってしまった。

「きゃっ!」
「なまえさん!」「なまえ姉ちゃん!」
「2人とも怪我はない?」
「私達は平気だけど…」

怪我は軽く血が滲むだけで見た目ほど痛くはない。
事態はアキちゃんのサイコパワーで直ぐに収集した。
アキちゃんは最初はサイコパワーを忌むべき力と言っていたらしいけど遊星達に会って考え方が変わったみたい。
雰囲気も柔らかくなったし、よく笑うようになった。いいことだと思う。
閑話休題。
牛尾さんが巷を騒がせるゴーストの反応があったというので遊星達は走って駐輪場へ。
私はセキュリティの人が手当をしてくれるというのでその場に留まる。
手当を受け外を見ると遊星以外のメンバーが集まっていた。
大袈裟に手当された足に苦笑しながらみんなの元へ行く。

「なまえ姉ちゃん、傷は平気?」
「ほんの少し少し切っただけだから平気だよ。心配かけちゃったね。」

龍亞と龍可の頭を撫でる。2人はギュッと抱きついてきた。可愛い。

「それはそうと、どうしたの?」
「どうもこうも赤いグラサン野郎が遊星とデュエルしてんだよ」
「赤いグラサン?…ちょっと見せて!」

クロウを押し退けてDホイールの画面を除く。そこには遊星と私を助けてくれた赤いサングラスの人が映っている。

「これはどういうこと?」
「俺たちにもサッパリわかんねぇ」

赤いサングラスの人の操縦は凄かった。遊星も負けじとそれについて行く。

「あの人…すごくうまいね」
「ああ、あんなスピードでカーブを曲がりやがった」
「フン!アレくらいオレにもできる!」
「はいはい転倒王は黙ってて〜」
「なんだと!」

ジャックを茶化している間にデュエルは遊星の勝ちで終わった。
赤いサングラスの人…アレは負けたんじゃなくてわざと遊星に勝たせたんだ。
Dホイールの操縦もデュエルの腕もプロ並み…なのに今まで見たことがないなんて…。
赤いサングラスの人をジッと見つめる。
不意に彼がこちらを向いた、サングラスの奥に隠された瞳と目が合った気がした。

(20180305)
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