「なまえ、隣に座ってもいい?」
遊園地で遊ぶのも終盤の差し掛かり、最後に観覧車に乗ろうと龍亞が言い出してゾロゾロとみんなで観覧車に向かったものの
女の子達に言いくるめられ、あれやこれやと言う間にブルーノと2人で乗る事に……。
「いいけど……」
そう返事をすると、ブルーノは私の隣に座った。
ゴウンゴウンと観覧車が動く。
視界が高くなって、地面から離れていく。
気恥ずかしさを誤魔化すように外の景色を見た。
「あ!あれ、ポッポタイムじゃない??」
遠目に見える噴水広場を指差してからブルーノを見るとジッとこちらを見ている。
その瞳は物言いたげに揺らいで、そして、ひどく蠱惑的で茶化したり誤魔化したりしてはいけないと、そう思った。
「なまえ」
彼が私の名前を呼ぶ。
ブルーノの大きな手が、膝に置かれた私の手を包むように触れる。
今までお互いにハッキリと口に出して好意を伝えはしなかったけれど、行動に含みがあった。
それでも、言葉にして伝えないのは一線を踏み越えないためか、今の関係を壊すのが怖いからか。
「……僕は、君のことが好き」
包まれていた手を恋人繋ぎのように繋ぐ。
真剣な眼差しでこちらを見て、言葉を紡いだ。
「初めて会った時から好きだった、でも僕には記憶が無いから、僕が何者かがわからないから……君に迷惑をかけたくない。」
繋がれた手に力がこもる。
私の熱かブルーノの熱かわからないけれど、接触している部分から熱がジワジワと伝わってきて熱い。
「でも、好きなんだ……」
まるで何かに懇願するように言うブルーノの手を、肯定の意を込めて強く握り返した。
「私もブルーノのことが好き」
声が震える。
私にしては珍しく、緊張しているのかもしれない。
ブルーノも手を握り返してお互いに視線を交わす。
「……本当は言わないつもりだった、このままでいいって思ってたんだけれど、あのピエロの人に抱きつかれてるのを見て、このままだと君が何処かへ行ってしまうと思ったんだ」
「何処かに行っちゃうかもしれないのはブルーノの方だよ……」
「……僕が?」
ブルーノに記憶が戻って、実は好きな人がいたり妻子がいる可能性だってゼロじゃない。
そうだったとしたら、横恋慕になるのかな。
もし相手がいたのなら相手に申し訳ないという気持ちと、私を選んでくれなかったら?という気持ちがぐちゃぐちゃになって葛藤している。
「記憶が戻ったら、ブルーノは帰っちゃうんでしょ?」
「……それは……わからない、けど」
好きだって伝えたけれど、本当にこれで良かったの?
ブルーノが私の手の届かないところに行ってしまったら?
これ以上好きになってしまったら、別れるのが辛くなってしまう。
(何を弱気になっているんだアホめ!!)
脳内でジャックが私に喝を入れる。
ああ、もう、わかってるよ。
ブルーノが言葉にして気持ちを伝えてくれて、私も返した。
今はそれだけでいいはずなのだ。
「ごめん、ブルーノ。記憶がなくて辛いのはブルーノなのに、私……自分のことばっかり」
自分の気持ちがしっかりとブルーノに伝わるように願いながら、繋がれた手をもう片方の手で包むように握る。
「……もし、ブルーノの記憶が戻って別人みたいになったとしても、私はきっとブルーノのこと好きになるよ」
記憶が戻った時のことは、その時考えればいい。
過ぎてしまった過去を憂いても何も変わらないし、見えない未来を不安に思ってもどうなるかわからないのだから、今を大事にしないといけないってマーサも言ってた。
「でも、記憶が戻った時のことはその時一緒に考えればいいよね?」
「一緒に……うん、そうだね。ありがとう」
お互いにただ黙って見つめ合う。
観覧車の動く音だけが聞こえて、この世界に二人だけになったような錯覚に陥る。
そう思ったらなんだか気恥ずかしくなって、バクバクと心臓の音がうるさく聞こえてきて、ブルーノの瞳に映る自分の顔がなんだか別人のように見えて、居た堪れない。
何か言わないと、と口を開こうとした時ふと窓の外から視線を感じた。
探るような、面白がるような、なんだかくすぐったい視線。
視線の方に目をやると窓に張り付いてこちらを見る子供たちがいた。
「!?」
私が驚いたのを見てブルーノも同じ様にそちらを見て苦笑する。
私たちと目があった子供たちは慌てて後ろを向いたり顔を引っ込めたりした。
「あはは……」
「なっ、あれじゃあ出歯亀根性丸出しじゃない……」
(20190804)
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