ズバァンと久々知くんがすごい音のスマッシュを決めて相手チームが動揺する。
バレーってよくわからないけれど、久々知くんってすごいんだなぁ……と感心していると、ベンチの後ろにいた伊作先輩に相手チームの暴投が当たった。
伊作先輩にボールが当たる事はいつもの事らしいけれど……みんなが慣れるくらいバンバン当たるって、ちょっと危ない気がする。

試合が中断し、打ち所が悪くて脳震起こしたら大変!と、介抱しようとしたところ食満先輩がすっ飛んできてテキパキと伊作先輩の面倒を見る。
頭には当たっていないようで、本人は大丈夫だと言っていたけれど……(でも思いっきり顔に当たってた気がする)
「横になった方が良いですよね?ベンチ、私の横が空いているので…」と言いかけたところ、今度は何故か久々知くんがすっ飛んできて伊作先輩を寝かしつけた。
膝?阻止?とかなんとか言っていたけどよく聞こえなかった。

「天使にボールが当たりそうになったら俺が守……いや、当たりそうになるような状況すら作らせないから安心してくれ」
「う、うん、ありがとう」

ぎゅっと両手を握られていい笑顔で言われる。
暴投から守るってどうやってやるんだろうと思ったけれど、横で寝ている伊作先輩が弱々しい声で、近くにいる僕の為にも兵助頑張れ……と言ったので泣きっ面に蜂でもう一度暴投を打ち込まれても堪らないだろうから、深く考えないようにして久々知くん頑張れと応援する事にした。











2セット目が終わる頃に伊作先輩が起き上がる。

「伊作先輩、大丈夫ですか?」
「うん、少し休んだから平気だよ、ありがとう」

伊作先輩の様子を見るに問題はなさそう。
伊作先輩に何かあった時にとても頼りになる食満先輩もいるし、それに流石に長いこと保健委員をやっている身として自分の体調くらいはわかるだろうし、本人が大丈夫と言えば大丈夫なんだろう。

「マズいね」
「体調がですか?」
「ううん、試合のほう」

素人には何が起こってるか全くわからないけれど、伊作先輩曰く試合は勝っているには勝っているけれど相手の出方がよくないらしい。
どう良くないかはわからないんだけれど……。
今日は久々知くんのスマッシュに隠れて霞んでしまうけれど、他のみんなも凄いから相手チームは警戒しているんだと思う。

「兵助が標的にしてた奴、下げられたな」

起き上がった伊作先輩の様子を見に食満先輩がベンチにやってくる。
3年生はとことん手を出す気がないようで、ユニホームではなくジャージ姿だ。

「あれはもうしょうがないよ……僕あの兵助に狙われたら普通に怖いもん」
「普段はそれなりに温厚なのにな」

そう言って伊作先輩は眉を下げながら笑い、食満先輩は久々知くんを一瞥する。
鉢屋くんがスマッシュを決めて2セット目も取る。
不破くんと鉢屋くんは似ているからどっちかわからなくなって相手もマークするのが大変みたい。

「相手が変な出方をしなければ、このままストレート勝ちだな」
「でもあれだけ啖呵切ったんだから向こうも何かしら対策を組んでいるはず……」
「だよなぁ」

伊作先輩と食満先輩の話を聞いていると少しだけ心配になってくる。
大丈夫かな……大丈夫だよね……?
それよりもいつの間にか向こうのベンチに作画の違う人が座ってるのがとても気になる。
なんていうか、世紀末みたいな……ヒャッハーとか言い出しそうな感じの風貌の……。
疑うのはよくないけれど本当に高校生なのかな……?

「あの、向こうの厳つい人、生徒……ですかね?」
「……どう見てもカタギじゃねえだろ」
「作画違うもんね」

コートを挟んで逆側にいるから聞こえないとは思うけれど、音量を下げてヒソヒソと話す。
先輩たちに聞いても見たことないらしい。
でも、ユニホーム着ているし……選手、なのかな?

2セット目も取ってコートチェンジの際に、尾浜くんが立花先輩に何か耳打ちをしていた。






世紀末っぽい人は3セット目には相手コートにいて、伊作先輩と食満先輩と一緒に震えた。
見た目通りにヒャッハーな人は強くて久々知くんたちは苦戦しているみたい。こっちはメンバーチェンジもしてないから体力的にも向こうの方が有利だよね。
どうしよう……どうしようって言っても、私にできることは応援くらいしかないけど……。

悩んでいると立花先輩がベンチまで来て、伊作先輩を退かして座った。

「大木、勘右衛門から伝言だ」
「尾浜くんから?」
「“ヤバくなったら『兵助くん頑張って〜(裏声)』と兵助を応援してほしい”だそうだ」
「え?」
「まぁアレだ、名前を呼んだらいいんじゃないか?」

尾浜くんも、たまに変なこと言うよね。
私の事をからかってるのかな?と少しネガティブな事を考えている間にも点差が拮抗したまま試合が進んでいく。

「このままだとジリ貧になるな」

食満先輩がぼそりと言う。
尾浜くんの言う“ヤバくなったら”って言うのがどのタイミングかわからないのだけど……と、尾浜くんを見る。
私の視線に気がついて尾浜くんが口パクで何か言う。

(お、う、え、ん……して?かな)

「大木」

立花先輩が尾浜くんの意図を汲み取って、応援するように促す。
勿論今までだってみんなを応援してたけれど、あまり個人は応援してないかもしれない。

「兵助くん!頑張って!!」
「!」

言われた通りに応援すると、久々知くんが頭を抱えて悶えはじめた。

「天使が、俺の名前を呼んで応援してくれただと……!?」
「勘右衛門が言ってた最終兵器ってこれかぁ」
「兵助、応援してくれるなまえちゃんにカッコ悪いとこを見せるわけにはいかないだろう?さぁ(俺の分まで)頑張るんだ!」
「おほー……心の内が透けて見えるぞ勘右衛門」

それからはヒャッハーさんもタジタジになる怒涛の展開で、主に久々知くんが点を取っていた。
横で食満先輩や立花先輩が「あいつ、いつもこうなら楽なのに」と言っていたので、今日は特別に張り切っているんだと思う。


(20190903)
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