「お、これも似合うんじゃないか?」

義丸さんがお店に並べられた髪飾りを手にとって私の髪に当てる。
なんでも好きなもの買ってやるからな〜と、ニコニコしながら次々と品物を手にとり髪に当てる事を繰り返す。

「あの、やっぱり――」
「可愛い妹分を可愛がってるだけだから、黙って可愛がられてればいいんだよ」

弟分はいっぱいいるが妹分は初めてだからな、と笑う。

「お、これなんかその桃色の着物に似合うんじゃないか?」

桜を模した髪飾りを手にとった。
前に義丸さんから頂いた着物は今まで私なんかには勿体無くて着ていなかったけれど、今日は着るようにと義丸さんに押し切られた。

「桜か、儚げな感じがなまえに似てるな。これにするか」
「えっあの」

私が止める間もなく、義丸さんはすみませーんとお店の人を呼んだ。



義丸さんと町に来る事になった理由は数時間前に遡る。




***




「なまえ、妖怪に連れていかれそうになったの!?」
「あはは……」

網問くんが山盛りに盛られたご飯を受け取りながら、目を丸くして聞く。
水軍内での情報の回り方が早すぎて朝ごはんの時間になる頃には、私が海に入っていたことが水軍中に知れ渡っていた。
それに対して私は何とも答えようがなく、否定も肯定もできない。
網問くんの問いを曖昧に笑ってお茶を濁した。

疾風さんと重くんと先に朝ごはんをいただいたので、ご飯をペンペンと盛る係に徹している。
そこへ、義丸さんと鬼蜘蛛丸さんがやってくる。

「あ、兄貴おはよう!」
「おはようございます」
「おー、おはよう」

私は2人の分のご飯を急いでよそう。
水軍さんたちは達は本当に良く食べる。体が資本なんだなぁ。
かまどで炊いてはいるけれど、この時代に白米って……ううん、やっぱり深く考えるのはやめよう。

よそったご飯を鬼蜘蛛丸さん、そして義丸さんに渡すと、2人はジッと私の顔を見た。
複数人にジッと見られるというのは居心地が悪いもので萎縮してしまう。
私、何かやらかしたのかな?どうしよう、と縮こまっていると鬼蜘蛛丸さんが顔を覗き込む。

「顔色があまり良くないな」
「兄貴聞いてよ!なまえってば妖怪に海の中に連れていかれそうになったんだよ」
「それ交代するときに重から聞いた」
「あれだな、山賊やら鮟鱇のばあさんやら、いろいろあって気が滅入ってるんだろ。そういう時に妖怪に憑かれるんだよ」

考え込むように黙っていた義丸さんがおもむろに口を開いた。

「疲れるは憑かれるって言うからな」

山盛りに盛られたご飯を受け取りながらいい笑顔で言う。

「よし、じゃあ気分転換に俺と町に行こう」
「おい義丸」
「ずっと水軍館にいてもつまらないもんな」
「義丸」
「俺とデートしたら気分も晴れるさ」
「おい」

義丸さんがニコニコと話している後ろで、鬼蜘蛛丸さんが鬼の形相で義丸さんの名前を呼ぶ。
ワザと無視しているのが手に取るようにわかる。
それはいつものことのようで網問くんはまたやってる〜と呆れ顔だ。

「なんだよ、鬼蜘蛛丸」
「あのなぁお前と町に行くって余計に疲れさせてどうするんだ」
「そんなことないさ」

ふふんと勝気に笑う義丸さんに対して、鬼蜘蛛丸さんは医者の許可が出ていないとか、お前と二人だと心配だとか、お小言を言う。

「俺と町に行きたいよな〜?なまえ??」

鬼蜘蛛丸さんのお小言を華麗に無視し、義丸さんは女好きのする笑顔を浮かべる。
水軍の人はみなさん素敵だけれど、義丸さんは特に女性にモテそうだなぁ……なんて場違いな事を考える。

「え、あ、えっと」
「ほら、なまえも行きたいって」
「言ってないだろ」

まるで漫才のようなやりとりを黙って傍観していた網問くんが元気よく挙手する。

「オイラも行きたい!」

まるで子犬のように、行きたい行きたいと義丸さんにじゃれつく。

「ダメだ、お前連れてったらデートじゃなくなるだろ」

義丸さんはじゃれつく網問くんをこれまた犬か猫のようにシッシッと追い払った。





***





そんなわけで義丸さんに押し切られ、そして言い包められて(言い方は悪いけれどまさにそんな感じだった)義丸さんと2人で町にいる。
色男の隣を歩くと言うのは居心地が悪い。
ううん、義丸さんじゃなくても私なんかが誰かの隣を歩くのがおこがましいというか……。
ましてや何もしていない居候なのに、なにかを買ってもらうのは良くない気がする。
髪に飾られた髪飾りに細心の注意を払いながら恐る恐る歩く。

結局、あの桜の髪飾りは断る間も無く義丸さんに買ってもらった。
店員さんのなんとも生暖かい目線が辛かった。

「あの義丸さん、ありがとうございます」
「ん、俺が勝手に選んで勝手に買っただけだからな」
「でも、私なんかに……」

義丸さんが私の頬を摘む。

「私なんか、って自分を貶めたっていい事ないぞ」

掴んだ指をムニムニと動かして頬を引っ張る。

「性格を変えろとは言わないけどな、そこまで自分のことを卑下しなくてもいいんじゃないか?」
「……ご、ごめんなさい」
「怒ってるわけじゃない」

義丸さんは言葉通り決して怒っていない優しい声色で言う。
しっかりとした、しかし優しい声色で目を合わせて、まるで子供に言い聞かせているようだと思った。
優しい眼差しに居心地が悪くなる。

「なんていうか、うちに来たばっかの網問に似てるんだよな。方向性は違うけど」
「え?」

頬から手を離して、頭に手を置かれる。
いつもはそのまま髪がくしゃくしゃになるほど撫でられるのに、髪飾りがあるからか、それとも他の理由かただ手がそこに置かれているまま。

「なまえは、結局誰も信じてないんだよ」

そう言う義丸さんの声が遠くに聞こえた。


(20190929)
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