「フロントサスペンションが倒立式フォークだ。でもこれじゃあ重いと思うのだけど……いやでも全体のバランス的には……この方が……」
ブルーノは今より少し幼さと素直さの残る私の横で静かに佇む青いDホイールの写真を熱心に見てなにやら呟いている。
写真を見ただけでわかるなんて、流石スーパーメカニック。
自分が乗っていたDホイールなのにブルーノの言っている事が全然わからない。
(私は基礎の基礎的な所しか覚えなかったからなぁ……。)
そのDホイールも今では大破させちゃって、もう無いのだけど。
「これを作ったのはあまりDホイールに詳しくない人かもしれないね」
「そんな事までわかるの?」
「うん、なんとなくだけど。写真を見る限り基本的な所を全部外してるんだ。よっぽど挑戦的な人か、畑違いの人が作ったって印象を受けるな」
「へぇ……すごい」
私にDホイールをくれた知らないおじさん(その人が作ったかどうかはわからないけれど)はDホイールに乗らなそうな人だったもんね。
なんか、普通の頭が良さそうなおじさんって感じだった。
あの頃の写真を見られるというのは気恥ずかしいのだけれど、ブルーノはDホイールに夢中なのでその気恥ずかしさも薄れてきた。
アレもこれもと写真を出してきたマーサは喧嘩を始めた子供たちの仲裁のため席を外している。
(私の写真はジャックと喧嘩してる場面ばかりだった……)
ブルーノはなまえは活発だったんだね、とフォローしてくれたけれど心が痛い。
違うの!喧嘩を吹っかけてきたのはジャックなの!!と言い訳をしてみるものの、私から吹っかけたこともある……でもそれは内緒。
マーサにはそれはもう洗いざらい聞かれた。
改まって話すとなると、こうも恥ずかしいものなのか。
終始マーサのペースに乗せられっぱなしだった。
「それにしても、この頃のなまえも可愛いね」
「……なんでブルーノそういう事サラッと言うの?」
「だってなまえが可愛いから」
「もー!」
ブルーノが突拍子もなく可愛いだなんて言うものだから、恥ずかしくなって拗ねたフリをしてしまう。
これはいつまで経っても慣れそうにない。
そのうちマーサが戻ってきて、私の赤い顔を見てあらあらまぁまぁだなんて面白そうにニヤニヤして「お転婆娘も好きな人の前では大人しくなるんだねぇ」とかました。
このままだとマーサに写真だけでなく過去のお転婆を洗いざらい話されてしまう。
「あの子達の姉貴分やってる時点で手遅れだよ」
……だよね。知ってた。
***
「なまえはお転婆だしお節介だし気が強いけれど、根は優しいから見捨てないでやってくれよ」
「ちょっとマーサ見捨てるって何?」
「あはは、僕の方が愛想を尽かされないように頑張ります」
マーサと一緒にポッポタイムに帰るブルーノを見送る。
私が愛想を尽かすなんてこと考えられないんだけど……。
「あのなまえが恋人を連れてくるとはねぇ」
だんだんと小さくなっていくブルーノの背中を眺めながらマーサがポツリと言う。
「少し前までは『遊星より賢くて、ジャックより大きくて、クロウより優しい人じゃないとヤダ』って言ってたのにね」
「そんなこと言ったっけ?」
「言ってたよ。忘れちまったのかい?」
「うーん。でもブルーノはDホイールのこと詳しいし、背が高いし、優しいし……1番可愛くてカッコいいから」
「はいはい」
しばらく外でそんな話をしていると、雑賀さんが帰ってきた。
「お、なんだ。俺の出迎えか?」
「聞いとくれよ雑賀さん、この子ったら恋人を連れてきたんだよ」
「やっとか」
揶揄う人が2人に増えた。
もうこうなったら、2人がうんざりするくらいに惚気まくってやると心に誓った。
(20200601)
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