「全員集まったな」


水軍衆全員が一つの部屋に集まる。
むさ苦しい事この上ないが慣れたものだ。


「今回集まってもらったのは舳丸と重が拾ってきた女人についてだ」
「拾ったって犬じゃないんだから…」
「犬…捨て犬…ぶはっ」

由良四郎のツッコミに義丸が笑う。
笑いの沸点が低いのは困ったものだが、そこが義丸の良いところでもある。張り詰めた空気が少し和らいだような気がする。

「その子が一度起きて少し話をしたんだが本当に捨てられた犬っぽかったぞ。なあ、鬼蜘蛛丸」
「お頭…俺に振らないでください」
「じゃあ、間切」
「えっ俺ですか!?」
「お頭、犬とかはどうでもいいですから話を進めてください」
「おお、すまん」

疾風が脱線した話を戻す。
普段から若い衆を纏めているだけあって手慣れている。
舳丸と重が打ち上げられていたところを拾ってきて、医者に見せ、暫くして起きた女人と話をしたがすぐに倒れて今は寝かせている。と概要を簡単に伝える。

「拾ってきた舳丸と重はどう思う?」

口を閉ざしていた蜉蝣が舳丸と重に問う。

「私達はまだ彼女と話をしていないので…」
「変な格好だなぁとは思ったんですけど、まず助けることに夢中だったので…ね、兄貴!」
「ああ…南蛮の衣服のようでしたね」

見慣れない南蛮衣装。
医者に見せたところ傷はないが女子に似つかわしくない痣があったそうだ。しかし、南蛮衣装を着ているが顔立ちは南蛮人ではない。


「あの子、もしかして…妖怪とかじゃないですか?」
「ぶはは!妖怪!!!」

ポツリと網問が言う。網問渾身のボケに(本人は至って真面目だ)義丸は耐えきれずに吹き出して、隣に座っていた鬼蜘蛛丸の背中をバシバシと叩いている。痛そう。

「馬鹿言うなよ。お前その女の人に会ったんだろ」
「うん。普通っていうか…捨て犬?」
「いや犬はもういいから」

航が呆れた顔をして網問にツッコミを入れる。
どうやら捨て犬というワードをかなり気に入ったらしい。言い出したのは俺だけれど可哀想だからやめてあげて。

(本当に妖怪だったら俺は怖すぎて駄目かもしれない…)
疾風は心の中でひっそりと嘆いた。

「状況が把握できていない感じでしたよね」
「どういう経緯で海に打ち上げられていたかは知らないが、起きたら知らない場所っていう状況じゃ無理もないと思うぞ」
「あれが演技じゃなければいいのですが」
「…演技じゃないと思う」

鬼蜘蛛丸の呟きに義丸はピシャリと断言する。

「なんでわかるんだ?」
「乙女子の微妙な変化は見逃さないからな」
「あ、そう」

義丸の発言を至極どうでもいいと言った様子で吐き捨てる。義丸の節操のなさには困ったものだ、と蜉蝣がため息をついた。


「…考えてもわからんし、この件は保留にしよう」
「保留ですか…」
「本人がいないところで話し合ってもわからない事が多いだろ?」
「しかし…」
「あの子になら寝首をかかれるようなこともないだろう。それでも心配なら見張りをつければいい」










***









目が醒めた。暗い。
窓から差し込む月明かりだけが辺りを照らしている。
海の匂い。波の音。再び見ることになった天井、床。
どうやら私は倒れたらしい。
海に打ち上げられていた事も気になるけれど、こんな時代錯誤な場所なんて知らない。
本当にここはどこなんだろう。
覚醒しきらない頭で必死に思考を巡らせたが、よくわからない。
この部屋唯一の扉をそろりと開け、外を確認してみる。やはりというか、なんというか案の定部屋の外は暗い。


「女人がこんな時間に何処へ行こうと言うんです?」
「…っ!」


少しだけ、そう思い廊下に一歩踏み出したとき、赤毛に鋭い目つきの男性に話しかけられた。
どうやら扉のすぐ近くにいたらしい。
こんな時代錯誤な場所だ…もしかして見張り、とか…?


「あ、あの………」


口を開いたがなんて聞いたらいいのかわからない。
状況が把握できない今、誰かに聞くしかないのはわかっているのだけれど、でも、何を聞けばいいのかわからないのだ。
もし下手な事を聞いて逆鱗に触れてしまったら怖い。


「そのような格好で外を出歩かないでください」


思考を巡らせている間に部屋に押し込められ、ピシャリと扉を閉められた。
(…えっ?えっ????)


「あの」
「…貴女を着替えさせたのは町の医者です」
「………え?」
「貴女の着ていた不思議な衣は申し訳ありませんがもう着られないかと…」


硬く閉められた扉の向こうから申し訳なさそうな声が聞こえる。
不思議な衣…洋服の事だろうか。何を着ていたのかいまいち思い出せないのだけれど恐らく洋服を着ていた筈。
着ていた洋服だけじゃなくていろんなことが朧げにしか思い出せない。


「私は、海に打ち上げられていたと聞きました…」
「そうです」
「ここの人が助けてくれたとも聞きました。…どうして海に打ち上げられたのか記憶にないのですが…その、助けてくださってありがとうございます」
「…それは明朝、お頭に言ってください」
「…はい」
「今は子の刻、起きたばかりでしょうが日の出までは大人しくしていてください」
「…はい」

子の刻…。
正確な時間はわからないけれど恐らく午前0時くらいだと思う。
扉の向こうの彼は言葉遣いは丁寧だけれど、要は「大人しく寝てろ」と言っている。声だけしか聞こえないけれど威圧感がすごい。
(する事もないし、怖いし、布団に戻ろう…)

布団に戻って目を閉じる。
眠れなくても目を閉じていれば大人しく寝ているという体裁は整う。

外からは波の音だけが聞こえる。
どうしてこうなったのか思い出そうとしても記憶が霞がかかったようで、さっぱりわからない。
どうしたらいいんだろう…闇の中に1人取り残されたような気がして目を瞑っているのにじんわりと涙が滲んだ。


(20180320)
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