「なまえ、おはよう」

朝、玄関を出るとそこには久々知くんがいた。朝日に照らされてキラキラして見える。
久々知くんの家はこっち方面じゃなかった気がするんだけどなぁ。

「久々知くんおはよう……えっと、どうしたの?」
「今日は朝練がないから一緒に登校しようと思って」
「そ、そうなんだ」

久々知くんは眉目秀麗、文武両道、真面目な優等生を地でいく存在なんだけれどほんの少し変なところがある。
どうやら彼は私の事をお豆腐の神様が遣わせた天使だと思っている。
ちょっと自分でも何言ってるのかわからないし自分で言うのはものすごく恥ずかしいのだけれど、そう思っている節があるのだ。
もう何を言っても無駄なので諦めている。
学校へ向かって歩き出すときに、久々知くんが荷物を持つと申し出たが丁重にお断りしておいた。


「朝練ないの珍しいね」
「今日は全校集会の準備があるとかで体育館が使えないんだ。お陰でなまえと登校できるからいいけど」
「そ、そう」

久々知くんはバレー部に入部している。同じ委員会の善法寺先輩曰く、七松先輩が強制的に入部させたらしい。
七松先輩については体力お化けの怪力ゴリラだと竹谷くんが嘆いていた。

「本当は毎日一緒に登校したいんだ…。だって不審者とかが現れてなまえが危険な目に合うんじゃないなと思うと……俺は、俺はっ!」
「だ、大丈夫だよ!久々知くんにもらった防犯ブザーちゃんと付けてるから!」

ホラ見て!と言って久々知くんにもらって(もとい押し付けられて)カバンにつけている防犯ブザーを見せる。
お豆腐のマスコットのような見た目で防犯ブザーとはわからない代物だ。

「クラスが違うからずっとは見守れないけど学校で何かあった時も鳴らすんだよ。すぐに駆けつけるから!」
「学校じゃあ早々ないと思うけど……」
「いや!なまえは天使なんだからこんな性に貪欲な男子高校生がうじゃうじゃ居るところではナニが起こるかわからないんだぞ」
「う、うん。何かあったら鳴らすね」

久々知くんの怒涛の勢いに押されてつい頷く。
それから学校へ着く間、如何に世の中が危ないかという事と防犯意識について語られた。

「天使にはわからないと思うけど、下界は危ないんだ!」

危ないのは久々知くんの頭だよ……。





「またなまえちゃん、兵助に捕まってる」
「うわ〜かわいそう」

下駄箱で1年C組の名物コンビの不破くんと鉢屋くんに遭遇した。彼らも久々知くんと同じ七松先輩の被害者(バレー部)でよく久々知くんと一緒にいる。
A組の下駄箱だけ少し離れているので久々知くんと一旦別れる。

「なまえちゃんおはよ〜」
「不破くん、鉢屋くんおはよう。朝練なくても早いんだね」
「僕、朝練ないの忘れてて早く来ちゃったんだよね」
「俺はそんな雷蔵に付き添ってた」
「2人は仲良しだね」

そんな会話をしながら靴を履き替えていると、ガシャーンと大きな音が聞こえた。

「なんだろ」
「大丈夫かなまえ!!」
「まるでセコムだな」

その音に久々知くんが駆けつける。
どうやら音の出所は久々知くんの下駄箱でも私たちの下駄箱でもないようだ。
となると上級生の下駄箱だけど…4人で上級生の下駄箱を覗くと、伊作先輩がすっ転んでいた。
私にとっては同じ委員会の先輩、そして久々知くんたちも同じバレー部の先輩という事で急いで駆け寄る。

「伊作先輩!大丈夫ですか!?」
「あ……なまえ、それに久々知に不破と鉢屋」
「どうしたんですか?」
「ちょっと転んじゃって…」

どうやら靴紐が根元から切れて勢い余って転んだらしい。
どこも打ってはいないようで怪我はしていないみたい。よかった。
靴紐が切れるなんてどういう状況か全くわからないけれど、怪我がなくてよかった。

「一応保健室に行きます?」
「大丈夫だよ、受身は取れたし」
「でも……うーん、あとででも痛み出したらちゃんと保健室行ってくださいね」
「うん、そうするね」

先輩は、たまに無理をするから釘を刺しておく。
今日は朝練ないし大丈夫だとは思うけど……どうしてこういうときに伊作先輩と仲の良い食満先輩はいないんだろう。


「不運委員会の不運の呪いマジで怖いな。靴紐が切れるとか」
「でもなまえちゃんは不運じゃないよね」
「……慈悲深く先輩の心配をする天使マジ天使」
「兵助に信仰されてるのが最大の不運だと思うぞ」
「あー……そうだね」


(20180321)
(修正20200412)
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