人生で2度目に惚れた相手は、アイツとは似ても似つかないほど正反対の女だった。


「名前…お前が好きだ」
「悪いけど、色恋なんかに興味ないの」


もう後悔すんのはごめんだと、意を決し想いを伝えたものの見事玉砕。時間にしてわずか30秒足らず。言い終えるなりその場を立ち去る彼女の背中をただ呆然と眺めることしか出来なかった。

そんな彼女と俺達が出会ったのは浪士組志願者会所。野郎共しかいない場所で、名前は一際目を引く存在だった。
そして現在、副長補佐として真選組に在籍している。剣の腕は総悟に引けを取らず、頭のキレも良い。非の打ち所が無いほど有能だ。ただその一方で、淡々とした性格ゆえに表情の乏しい人間でもある。
だからこそ初めて見せた彼女の柔和な笑みに、俺は見事に心奪われてしまったわけだ。


「トシ、入るわよ」
「あぁ」
「…臭い」
「はっ?」


部屋に入るなり臭いと言われ、何のことかと名前に目を向ければ呆れ口調で「煙草臭いと言ってるの」と許可も得ず勝手に入り口の障子を全開にする。


「煙草吸ってねぇと仕事が進まねェんだよ」
「完全な中毒者ね。それじゃ早死しちゃうわよ」
「なんだよ、心配してくれてんのか?」
「まさか」


机を挟み俺の目の前に腰を下ろした名前は、資料室から持ち込んできた資料を開きながら人を小馬鹿にしたように鼻を鳴らした。


「降り出しそうね」
「あっ?…あぁ、そうだな」


突然ぽつりと呟いた名前の視線は俺を通り越し、開け放たれた障子の先へと向けられていた。釣られて同じ方向へ目をやると、そこにはどんよりとした鉛色の空が広がっている。
そう言や、今朝方結野アナが午後から雨が降るとか言ってたな…そんなことを思い出していた矢先、ぽつぽつと屋根瓦を叩く雨音が静かな室内に鳴り響く。


「嫌いか、雨?」
「大嫌い。気が滅入っちゃうもの」
「そうか」
「あなたは、嫌いじゃないの?」
「あぁ、逆に気が紛れる。それに雨上がりの澄んだ空ってのは風情があんだろ」
「確かにそうね」


外を眺めていた名前と目が合うと、彼女は柔らかく微笑んだ。その何気ない笑みを目にして、俺の心臓は当たり前のごとくドクンと波打つ。

有り難い事に彼女は以前と変わらぬ態度で接してくれていた。
想いを伝え振られた翌日こそ、どんな面して顔を合わせれば良いものかと苦慮していたが、今では俺自身も以前と変わらぬ態度で彼女と接している。

ただ、未だに名前への想いを抱いたまま、それを悟られぬよう平然を装っている。


その恋は行方不明


20171128


NEXT/BACK