「なんでよりによって沖田君なわけ?」
「と言われましてもー…」


目の前に座る銀ちゃんは呆れ顔でボリボリと頭を掻きながらこちらを見下ろしている。そして言葉に詰まる私は、ソファに座る銀ちゃんとは対照に冷たいフローリングの床に正座させられていた。


「名前ちゃーん、聞いてんの?」
「は、はい!しかと聞き留めております」
「で、なんで沖田君とヤッたんだよ?」
「えっと、そのー……酔っていたので覚えておりません」


この状況を作り出した事の発端は、3日ほど前に私が沖田君と一線を越えてしまったから。と言っても言葉にした通り酔っていて全く覚えていない。
朝、目が覚めたら如何わしいホテルにいて、一糸纏わぬ姿で沖田君と仲良くベッドに並んでいた。
そして今日、その事を沖田君の口から聞かされたらしい銀ちゃんは血相変えて家を訪れ、あれよあれよと今に至る。


「名前は酔ったら誰とでもヤッちまうんだな」
「そんなことない!」
「じゃあ沖田君だったからついて行ったっての?」
「ちがっ、それはその、酔った勢いと言うか、何と言うか…」


はぁと上から盛大な溜め息が降ってきた。溜め息つきたいのはコッチだよ。さっきから同じ会話の繰り返しで埒が明かないし、足は痺れてとうに限界越えてるし。
第一、どうして私は正座させられてるの?どうして銀ちゃんに説教されなきゃならないの?
あぁ、もう訳分かんない!イライラするっ!


「て言うか、そもそも銀ちゃんには関係ないことでしょ!」
「あァ?」
「私達はとっくに別れてるんだから!」
「だから何?」


間髪入れず言葉を発した銀ちゃんは急に立ち上がり、鋭い視線を私に向ける。
ヤバイ、怒らせてしまった…が、気付いた時すでに遅し。
近付いてくるなり屈み込んで、じりじりと距離を詰めてくる銀ちゃん。それに対して私はゆっくりと後ろに退避する。けれどそう広くはない室内で、私の背中は壁にぶつかり逃げ場を失った。


「元彼にとやかく言われる筋合いはねぇと?」
「そ、そうだよ」
「人の気も知らねェで、他の野郎に股開きやがって」
「言ってる意味が、ワカリマセン…」
「嫉妬してんだよ。いい加減気付いてくんない?」


銀ちゃんと壁の間に挟まれて完全に行き場を無くした私の頬をムギュッと掴む。これは完全にご立腹だ。見えはしないが青筋が立ってる。
いや、そうじゃなくて、銀ちゃんはどうして嫉妬してるの?別れてるのにどうして…


「嫉妬って、なんで…」
「んなもん、お前が好きだからに決まってんだろ!俺は今でも名前が好きなの、別れて後悔してんの、未練たらたらなわけ!お分かり?」

叫ぶように捲し立てた銀ちゃんはじっと私の目を見てる。前髪から覗くその真っ直ぐな瞳は逃げることを許してくれず、私は無言で懸命に頷いた。


「名前は沖田君と一緒になっちまうの?」
「違う、私は…」
「なに?」
「私は、銀ちゃんと一緒にいたい」
「だったらもっぺん俺と付き合ってくれるよな?」
「はい、お願いします」


私の返答を耳にした銀ちゃんは満足気な笑みを浮かべて「おう、宜しく」と私の唇にキスを落とした。
なんか銀ちゃんにうまいことしてやられた感じがするけど、私としても別れた事に後悔してずっと彼への想いを引きずっていたから良しとしよう。


「つーわけで、今からお仕置きな」
「えっ、なにが?」
「火遊びしちまう悪い子には、しっかり教え込まねェと」
「ご、ごめんなさいィィ!」


やっぱり、すき

(寄り戻したいって泣き喚くから協力してやったんでィ。感謝しな)
(…この腹黒王子めっ!)

20171126


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