一年、一色

 せっかくの記念日だからとやって来た、回らない寿司屋。たまにの贅沢に、二人して気分が上がる。
「そういえば、この前祥彰が教えてくれた曲最近よく聞いてるよ」
お茶を一口飲みながら、思い出したように彼女が言った。「ああ、あれいいでしょ」なんて返しながら、彼女の周りに確実に増えていく僕の影に、優越感とでも言おうか、どこか満たされる感覚を覚える。
 今だって、付き合い始めたころは苦手だと言っていた雲丹を美味しそうに口に運んでいる。僕のおすすめのお店に連れて行って以来、美味しさに気づいたらしい。
 それ以外にも、行ったことのなかった謎解きにも行くようになり、この前は漢検の勉強も始めていた。
「すっかり僕に染まってるね」
以前、茶化すようにそう言ったことがある。「確かに」と小さく笑った彼女は、満更でもない様子だった。
 いつか僕に染まりきって、日常に僕を思い出さないものがないくらいに僕一色になってしまえばいい。本気でそう思ってるって言ったら、君はなんて言うかな。



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