紺、ふたつ

 知り合いが自分のブランドで新しい服を出したらしい。ポップアップストアもあるけどネットでも買えるよと連絡をもらったので、さっそくサイトを覗いてみる。スマホをスクロールしながらひとつひとつ見ていく。
 セットアップは俺には難しいかな。スウェットはかわいいから二色とも買ってしまおうか。めぼしいものをカートに入れていると、とある商品を見て手が止まった。
 これはいいことを思いついた。にやにやしながら個数を2に増やして注文を確定する。早く届かないかなと、浮ついた気持ちでスマホを閉じた。

* * * * * 

「お風呂たまったから入っておいで」

ソファでテレビを見ていた私に彼が声をかけた。はーいと気の抜けた返事をして着替えをとって浴室へ向かう。
 今日は久々のお泊りの日。二人の予定がうまい具合にずれてしまい、なかなか日をまたいで会うことができなかった。前回のお泊りは私の家だったから、彼の家に泊まるのは本当に久しぶりだ。
 あまりに時間が空きすぎて、危うくシャンプーやらヘアオイルやらを忘れかけたくらいだ。私用のシャンプーとリンスを置いてもらえるように打診しようかな、なんてことを考えながら、私の家よりも少しだけ大きい浴槽に身体を沈める。
 お湯につかりながらしばらくぼーっとしていると、脱衣所に彼が入ってくる気配。

「タオル、置いとくよ」
「あっ、忘れてた。ありがと」
「いいえー」

いつもなら自分でタオルを取って行くのに、すっかり忘れていた。タオルを置くだけにしてはやけにガサゴソした後で出ていったみたい。他に用事でもあったのだろうかと考えてみたけれど、特に思い浮かばないので、まあいいかと考えるのをやめる。
 湯船から上がり、持ってきてくれたタオルで体を拭いていると、用意しておいたはずのスウェットとズボンが見当たらない。
 代わりに置かれているのは紺色の何か。広げてみると、どうやらパジャマらしい。やっぱりタオルを置いただけじゃなかったのか。
 ここに置いてあるということは着ていいってことだよね、と袖を通してみる。急にパジャマのプレゼントなんて、どういう風の吹き回しだろうと不思議に思いながら、リビングへと戻ると、私を見て彼が嬉しそうな顔をした。

「パジャマ、かわいいね」
「ありがとう…?これなあに?」
「プレゼント」

疑問符のついたお礼のあとに尋ねてみるけど、私の聞きたかった答えは返ってこない。それはわかっているのだが、どうして急にパジャマなのかを聞きたいのに。戸惑う私なんてお構いなしに、「じゃあ俺もお風呂入ってくる」と行ってしまった。
 テレビを横目にドライヤーをかけ終わったころ、彼が上がってきた。ドアを開けた彼の姿を見て、腑に落ちる。なるほど、これがしたかったのね。
 タオルで髪の毛を拭きながら歩いてくる彼は、見覚えのある紺のパジャマを着ている。気づいた私に彼は、

「えへへ。おそろいにしてみた」

とふにゃりと笑って言う。

「外着るものでお揃いはちょっと恥ずかしいから」
「だからパジャマ?」
「そう」

彼が表に立つ仕事ゆえ、お揃いの洋服を買うのははばかられる。実は年甲斐もなく密かに憧れていたなんて伝えたら、どんな顔をするだろう。
 でも、2人だけの空間の、お互いしか見ないお揃いも悪くない。
 彼の髪を乾かして、二人でテレビを見始める。お揃いの紺がソファに並んだ。


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