心の梅雨晴れ間
肌にまとわりつくような空気に辟易とするこの季節。外では降りしきる雨がザーザーと音を立てながら地面を打っている。晴れ間が見えるのは数日後と言っていたから、しばらくこの天気は続くらしい。鈍い頭痛に眉間にしわを寄せながら、ソファに座ってスマホで動画を見る彼に話しかけた。
「ねえよしくん」
「うん?」
「あれやって欲しい」
「ああ、もう梅雨だもんね。頭痛い?」
「うん。結構きつい」
じゃあおいで、と言いながら、彼はスマホを置いて自分の太ももをパシパシと叩いた。体の向きを変えた彼のももに頭を乗せて、仰向けになって寝転がる。目をつむると、彼の親指が私のこめかみに乗った。少しひやりとした指が気持ちいい。
そのまま彼がゆっくりと指に力をこめていく。力が加わっている間だけは、少し頭痛が和らいでくれる。前に「圧迫すると少し楽になるんだよね」と話してから、それ以来彼がやってくれるようになった二人の習慣。
梅雨の時期は憂鬱だけれど、この時間が増えることだけは唯一のいいところ。
「お客様、力加減いかがですか?」
「あっ、丁度いいです」
ヘッドスパをする美容師のものまねのように聞いてくるので、こちらもお客さんになりきってみる。
「ではこのまま続けますね」
「はい」
「強すぎたりしたら言ってくださいね」
くだらない会話を何ターンか続けて、耐えかねた彼がくつくつと笑い出した。
笑い声につられて目を開けると、真上から私の顔を覗く彼と目が合う。
「ありがとう。気持ちよかった」
「もういいの?」
「うん」
お礼を言って起き上がろうとするのに、頭を捕まえて起き上がらせてくれない。
「もう少しやってあげるから。ほら、目瞑って」
せっかくだから、お言葉に甘えてもう一度目を閉じる。
甘やかしすぎじゃない?と揶揄うように言うと、これくらいしかできないから、と返される。
そんなことを言っているけれど、いつもよりテレビの音量を下げてくれたり、お風呂の温度を少し下げてくれたり、いろんなことを気遣ってくれていることくらい、私だって気づいている。今だって嫌な顔一つせずにマッサージしてくれて。本当に感謝してもしきれないくらい。
彼がたくさん甘やかしてくれるから、あんなに嫌っていた梅雨の季節もちょっとはいいかなと思えてくるのだから、我ながら現金なやつだ。
「ねえねえ」
ぱちりと目を開けて話しかけると、彼が手を止める。
「なあに?」
と問う彼に、顔を近づけて欲しくて手をちょいちょいと動かすと、言うとおりに彼が顔を近づけた。
ちゅっ
首を伸ばして、彼の唇にキスをする。けれど恥ずかしくなって、体の向きを変えて縮こまった。耳まで真っ赤になっているのが自分でもよくわかる。
すぐに冷やかされると思ったのに、彼が何も反応しない。気になって彼の顔を見ようと顔を動かすと、すっと彼の手が私の目に覆いかぶさる。
「今見ちゃダメ」
隠そうとする手をそっとどけてのぞくと、そっぽを向く彼。ちらりと見える耳が赤い。
「……照れてる」
「うるさいな」
きっとこの後反撃を食らうけれど、それはまたあとで。