星に願いを
ふと目を覚ますと、外はまだ真っ暗で、隣に眠る恋人も静かに寝息を立てている。どうやら変な時間に起きてしまったようだ。もう一度眠りにつこうと目を閉じるが、完全に目は覚めてしまった。彼を起こさないようにゆっくりとベッドから抜け出し、時計を確認する。時刻は深夜3時。起きたはいいが、特にすることも無くて、ふとベランダに出てみる。
街が眠るとはよく言ったもので、人の生活の気配のなさは誰も居なくなったよう。まるで世界から切り離されたような感覚に、少しだけ怖くなる。
もしもこの世から私がいなくなったらどうなるんだろうなどと深夜らしいことを考えながら、しばらくぼーっと外を眺めた。
突然ガラガラとベランダのドアが開く音がして、いかにも眠たそうな声が私の名前を呼んだ。
「何してるの?」
「ちょっと目覚めちゃって。ごめんなさい、起こしちゃった?」
「んーん、大丈夫」
伸びをしながら隣に並んだ彼の髪の毛を、昼間よりも冷えた風がふわりとさらう。じっとその横顔を見つめるけれど、こっちを見てはくれない。気づいてるくせに、なんて思いながら、ふいっと私も前を向いた。
「にしても、こんな時間にベランダなんて出ちゃってどうしたの?」
「いや、特になんかあったわけじゃないんだけどね。眠れないなと思って」
「ふーん……」
お互い視線も合わせないで、ぼそぼそと言葉を交わす。
「夜は変な事考えちゃうとか前言ってなかった?」
「よく覚えてるね。言ってた」
「今日は?」
「さっきまで考えてたとこ」
そんなことを話したのはもうずいぶん前のことで、その時はサラっと流されたような記憶があるのだけれど、案外ちゃんと聞いていたらしい。「何考えてたの?」なんて聞いてくるけれど、そんなことを聞いてもどうにもならないだろうに。
いつまでも私が話し出すのを待っているようなので、「楽しいことじゃないんだけどね」と前置きをして話を始める。
「私が死んだらどうなるんだろうなって考えてた」
「死んだら?」
「うん」
「それは周りの人がってこと?」
「それもあるんだけど…」
もっと茶化されるかと思っていたのに黙って聞いているから、少し不安になって隣を一瞥すると、いつの間に彼の視線は私を向いていた。合うと思っていなかった視線がかち合って、慌てて逸らしてうつむく。
「死んだ後の私はどうなるのかなって」
「……お星さまになる」
「え?」
「とか言ってみる?」
しばらく考えて出した答えがあまりにメルヘンで、思わず笑いが漏れる。
「いつからそんなロマンチストになったの」
彼はえへへと笑って、そのまま言葉をつづけた。
「けど俺は、君が星になってくれたらと思うよ」
「……でも、星になったら夜しか会えないよ?道一つ照らす明かりにすらなれない」
死んだら星になるという言葉を聞くたびに思っていたことを、吐き出してみる。みんなはまるで素敵な事かのように星になるというけれど、一体どれほど寂しいことだろう。
あまりに後ろ向きすぎたかと撤回しようとすると、「でもさ、」と彼がゆっくりと口を開いた。
「夜の、一番そばにいて欲しいときに会える。目が眩むことなくずっと見てられる」
「……」
「ね?素敵でしょ?」
なに真面目に言っているんだと言いたいのに、あまりにじっと私の目を見るから言葉に詰まる。ふと、彼が私の顔に手を伸ばした。その指が目じりに触れて、初めて自分が泣いていることに気づく。
「……寝よっか」
彼の言葉にこくりとうなづいて、ベランダのドアを開けて部屋に入る。
もしも。もしも私が星になったなら、願い事一つくらいなら叶えてやってもいいかな。