俺だけの
いただきます、と二人で手を合わせて食べ始めた夕飯が半分くらいになって、彼の今日一日の出来事をあらかた聞き終わったころ、今日あった面白い出来事を思い出した。「あっ、ねえ聞いてよ!」
「おう、どうした」
あまりに勢い良く私が言うものだから、彼は少し気圧されたみたい。そんな事など気にせずに、私は話を続ける。
「今日面白いことがあってさ、」
「面白いことって最初に言ったらあかんやろ」
言っても面白いから!と言い張る私に、サラダを口に運びながら彼は視線で続きを促す。
「先週職場に新しい人が来たっていう話したじゃん?」
「したね」
先週別の支社から私の職場にやってきた、同い年の男の人。人当たりの良い人っぽくて良かったという話を、数日前に彼にしたばかりだった。「仲良くなれなかったらどうしよう」と相談していたから、上手くやっていけそうだよという報告はしておきたい。
「どうなん?仲良くなれそうなん?」
「めっちゃなれそう」
けれど、一番報告したかったのはそれではない。
「今日その人と何人かで話してるときに、あだ名決めようよって話になってさ」
「おん」
「私のあだ名、何になったと思う?」
急に振られたクイズに、彼は箸を止めてしばし考える素振りをする。けれど、早く言いたくてそわそわする私に気づいてか、あるいは単に考えるのが面倒だったのか、すぐに諦めて「何になったの?」と問う。
「実はね、駿貴が呼んでるのと同じ呼び方だったの。すごくない?」
今の彼からの呼び名は、私たちが付き合い始めたころに「ありきたりなあだ名じゃつまらない」と彼が言って呼び始めたものだった。他に同じ呼び方をする人は今までいないくらいに珍しい呼び方なのに、それが被るなんてと驚いてしまった。この驚きを彼にも伝えたくて、この話をしたのだ。
しかし、同じテンションで驚いてくれると思っていた彼は、なんだか反応が薄い。
「……すごくない?」
「いや、すごいんやけどさ」
伺うように尋ねるが、なんとも歯切れの悪い答え。
「俺呼び方変えていい?」
「えっ、なんで?」
急に呼び方を変えるなんてどうしたのだろう。なんだかんだ気に入っていたあだ名だったし、彼も気に入っていると思っていたのに。
「俺だけの呼び方やったのに盗られたわ」
拗ねたように彼が言う。盗られたという言い方が面白くてふふっと笑うと、じっとこちらを見た。
「新しいの考えよ」
「新しいの?」
「そう。誰とも被らんやつ」