青写真をうめる
軽い足取りでコンビニのドアをくぐる。手に持ったかばんには、先ほどコンビニで手に入れた物が入っている。この後の作業のことを考えながら、私は帰り道を急いだ。家について、机の上にばさりと置いたのは、先ほどコンビニで印刷してきた写真たち。一番上にあるのは、三か月前のデートの時の彼とのツーショット。この下にたくさんある写真は、全部彼との写真ばかり。ツーショットから、彼の後ろ姿、二人で行った場所の風景写真まで、いろいろな彼との思いでを切り取ったもの。
アルバムに写真をまとめ始めてから、半年と少しが経った。撮った写真を定期的に印刷しては、こうやって休みの日にまとめている。なんとなく恥ずかしくて須貝さんには言えないまま、もう少しで一冊埋まってしまいそうだ。次作業するときまでにもう一冊買っておいたほうがいいかな、などと考えながら作業を開始する。
古いものから写真を入れて、余ったところには「どこに行ったとき」「何をしているところ」と、写真の説明なんかをメッセージカードに書いて入れていく。単調な作業だけれど、振り返りながらやっていると、楽しくて自然と頬が緩む。
歩く彼を後ろから隠し撮りした写真。景色を撮っているところに彼がいきなり入ってきて邪魔をした写真。遠近法で彼の手に私が乗っているように見える写真。どれもくだらなくて、愛おしい。
しばらく作業をしていると、静かな部屋に小さくスマホの通知音が鳴った。見ると、須貝さんから。
『いきなりでごめんなんやけど今から家行っていい?』
えっ、と驚いて固まっているうちに、もう一通のLINE。
『というかあと五分くらいで着く』
普段なら前日までには連絡があるから、てっきり今日は来ないものだとばかり思っていた。だから部屋に写真を広げてアルバムづくりに勤しんでいたというのに。残りの写真とアルバムを雑にまとめて端に置き、いつもより少しだけ散らかった部屋を慌てて片付ける。
いつも彼が来る時くらいの部屋に片付いたころ、インターホンが鳴った。ドアをけると、ケーキの箱を片手に持った彼。「よっ」と言いながら部屋に入り、「これやるわ」と手に持っていた箱を手渡した。
「これ何?」
「いつものケーキ屋でメロンのケーキが出ててさ」
「もうそんな時期か。わざわざありがとね」
「本当は寄る気なかったんやけど、二人で食べようかなと思って」
それで急な訪問だったのねと納得しながら、ケーキを冷蔵庫にしまおうとキッチンに向かう。適当に座ってていいよと声をかけると、「あいよ」と返事をして彼が大人しく座った。
ケーキをしまい、お茶を持って彼のもとに戻ると、部屋の隅に置いておいたはずのアルバムがテーブルの上に広げられている。
「お茶ありがと。これアルバム?こんなん作ってたんやね」
固まる私に、彼は呑気にぺらぺらとページをめくりながら問う。返事がないことを不思議に思ったのかこちらに目をやって、私の顔を見るや否や吹き出した。
「そんな驚く?」
「だって、見られると思ってなかったから」
「こっそり作ってたの?」
「隠してたわけでもないんだけど、わざわざ言うことでもないかなと思って…」
私がただやりたくて始めた自己満足だから、付き合わせるのも申し訳なくて言っていなかったけれど、なんとも楽しそうに完成途中のそれを眺めている。
「一緒にやる?」
「いいの?」
存外乗り気な彼の隣に座り、彼に説明しながら作業を再開。写真を入れながら二人で思い出を振り返っていると、いつの間にか一番最近のデートの写真になってしまった。あと数枚入れれば終わってしまう。名残惜しさを感じながら、彼に書いてもらった説明書きのメッセージカードと一緒に写真を入れていくと、最後のページの左下に一つだけ空白が。
「……写真1枚だけ足りなくなっちゃったね」
「……どうせならキリよく終わりたかったな」
なんとも言えない顔を見合わせるけれど、これはどうしようもない。次回は一枚だけこっちのアルバムに入れてから二冊目に入ろう。
「まあ、仕方ないね」
「……」
「ケーキ食べる?」
軽くなだめておやつを誘うけれど、ひとつだけ空白のアルバムが気持ち悪いのか、彼は不服そうに考え込んでいる。普段は大雑把なくせに、変なところで几帳面なのだから笑ってしまう。
「…あっ、ちょっと待ってて」
突然彼が立ち上がり、スマホを持ってベランダに出た。戻ってきた彼は、満足げに笑っている。
「最後の写真、これとかどう?」
「どれ、見せて」
ほれ、と彼が今しがたとったらしい写真を見せる。よく見慣れた空の写真。彼の意図が分かりかねて、首をかしげながら彼を見ると、企むようににやりと笑った。
「ちょうど真っ青やったから」
なるほど考えたものだ。ようやく彼のやりたいことが分かり、口角が上がる。
「じゃあこれ印刷しに行こうよ」
「今から?ケーキ食べてからにせん?」
「完成させてからがいい。ほら、行くよ」
願わくば、彼の描く未来で隣に並ぶのが私でありますように。