夏バテはきっと君のせい
すっかり梅雨も明け、連日の猛暑に嫌気がさすこの頃。今は夜には多少下がる気温だが、もうじき夜風すらも生ぬるくなるのだろうと思うと、想像するだけで眉間に皺が寄る。彼は地方で仕事があるらしく、今朝早くに家を出て今夜はそっちに泊まるという。彼が家を空けるのはなんだか久々だ。
仕事を終えて家に帰ってきたはいいが、急に暑くなったこともあり食欲はあまりない。彼がいれば一緒に食べるのだけれど、1人だとどうしても億劫になってしまう。今日はなんだかんだ夕食は食べない気配がする。
ふと携帯を確認すると、不在着信と留守番電話が1件ずつ。地方にいる彼からのようだ。留守番電話を再生してスマホを耳に当てると、「もしもし」と彼の声。
「ちょっと時間ができたから電話したんやけど、仕事よな。ごめん」
普段どちらかが出張に行っても連絡してくるような人じゃないのに珍しい。寂しくなったわけでもあるまいし、一体どうしたのだろう。ただの気分なのか。
「そういえば、ちゃんとメシ食ってるか?どうせ1人だし食べなくて良いかとか思ってるやろ。ほんまアカンで?」
まさに今しがた考えていたことを言い当てられて、向こうには聞こえていないというのに「ごめん」と謝る。
「ご飯だけはちゃんと食べといてよ?」
それじゃ明日の夕方には帰ってくるから、と言って留守電は終わった。
完全に見透かされてるなあと、暗くなったスマホの画面を見ながら小さく笑う。普段はかけない電話をかけて、留守番電話まで残したのは、確実に私にご飯を食べさせるためだろう。時間が無くて、などと言い訳したところで通用しそうな未来はまるで見えない。
仕方が無いので、彼がうちに置いているプロテインバーと野菜ジュースを取り出して口に運ぶ。食べようと思えば食べられるから、まだ大丈夫。
きっと彼は「プロテインバーは飯じゃないから」と怒るだろうけど、それくらいは許して欲しい。食べただけでも褒めてもらいたいくらいなのだから。
毎年夏バテで貧血を起こしていた私がここ数年元気に夏を過ごしているのは紛れもなく彼のおかげ。彼が口うるさい母親のように「ちゃんとご飯を食べなさい」と言うからだ。付き合って初めての夏に、日毎に減る私の体重の目の当たりにしたことが、相当衝撃だったらしい。
この間は、
「次は基礎体力づくりやな」
なんて呟いていたけど、できればそれだけは勘弁して欲しい。でもまあ、彼のことだから私が本気で嫌がる事はしないはず。
彼がいればご飯はちゃんと食べるのだから、今のところはそれで十分だ。
『私の夏バテを防止するためにも早く帰ってきてね』
そうLINEを送ると、すぐに既読がついて着信画面に切り替わった。
まずい。これはきっと今から叱られる。「俺がいなくても夏バテにならんようにしな?」という第一声が今にも聞こえてきそうだ。今日の夜ご飯のメニューは黙っておこうかな。そんなことを思いながら緑のボタンをタップした。