贈り愛

 仕事帰り、最寄り駅に着くと、家を出る時には持っていなかった荷物を山ほど抱えて彼が待っていた。今年はまたえらくたくさん貰っている。

「拳くん、おまたせ」
「あっ、おかえり」

声をかけるとぱっと振り向いた彼に、ただいまと返す。じゃあ帰ろっか、と歩き出した彼は少し荷物が持ちにくそう。

「それ持とうか?」
「いい?ありがとう」
「いえいえ。にしても今年多いね」
「でしょ?俺もそんな貰うと思ってなくて、嬉しいけど困ったよね」

これもひとえに彼の人柄のおかげだろう。へらりと笑った彼を見て、本人でもないくせになんだか誇らしくなる。 誰に何を貰っただとか、意外な人からLINEが来ただとか、彼が話すのを聞きながら2人並んで家路を辿る。
 家に帰りつき、作っておいたご馳走を温めて食べる。誕生日だからといって甘やかさずに入れた野菜を恨めしげに摘む彼を見てけらけら笑っていると、デコピンをくらった。もう今日で28歳だというのに、意外と子供っぽい。
 夜ご飯の片付けを終えてキッチンから戻ると、彼はみんなから貰ったプレゼントを開けながら目を細めている。隣に座ると、嬉しそうな顔がこちらを向いた。

「ねえ拳くん」
「ん?」
「宝探し、好き?」
「えっ、うん……」

唐突な私の質問に彼は首を傾げつつうなずいた。

「好きだけど、どうかした?」
「なんと!今から、宝探しをします」
「え、今から?」
「うん、今から。この家で」

真ん丸な黒目が全部見えそうなほど目を見開いて聞き返す彼に、口角が上がる。
 毎年彼の誕生日は何かしらのサプライズをしているが、今年はプレゼントを家中に散りばめてみた。計5つのこまごまとしたプレゼントが家のいろいろなところに隠してある。今日は私も仕事が入っていて昨日の夜隠すしかなく、彼が見つけてしまいやしないかと仕事中もそわそわしてしまった。

「ルールは簡単。この家のどこかに五箇所プレゼントが隠されてます」
「5個もあるの!?」
「制限時間30分以内に全て見つけてください」
「……わかりやすいやつ?」
「どうだろ、そんなに複雑なところには置いてないと思うよ。プレゼントには分かるようにメッセージカード着いてるからそれ見て確かめてね」
「えっ、もう始めるの?」
「うん、始める。じゃあいくよ」

待って待ってと慌てる彼を横目に、スマホのタイマーをスタートさせる。動き始めたタイマーを見せると、観念したように部屋を探し始めた。こういうのは嫌いじゃないはずだから、なんだかんだ楽しんでくれるはず。

「あった!」

開始早々、彼が声を上げた。見に行ってみると、クローゼットの中の紙袋を見つけている。これでしょ?と言うように見せてくる彼に、「正解!」と答える。あと4つ。
 キッチンの戸棚、洗面所、ベッドの隙間。15分と経たないうちに4つが見つかり、残りはテレビ台の1つだけ。顎に手をあてながらうろうろと探し回っている。
 と、彼がテレビ台の前にしゃがみこみ、引き戸を開いた。見つかるまであと数秒。
 そう思っていたのに、彼は「え〜?」と困った声をあげながら扉を閉めた。振り向いた手には何も持っていない。

「ここにも無いのかぁ…」

おかしい。確かにそこにはキーケースを入れておいたはずで。かなり見えやすい位置に置いたから、確実に彼にも見えただろうに。

「えっ、拳くん。本当に無かった?」
「テレビ台の中?」
「うん」
「え、たぶん無かったと思うけど…。なに、ここに入れたの?」
「あっ……」

不安になって確認しまったけれど、これではそこにあるはずだと言ってるも同然だ。まあ端から本気で隠している訳では無いし、バレたところでそんなに問題ではない。
 そんなことより、だ。入れたはずのところに無いなんてそっちの方が大問題。「本当に?」ともう一度確認すると、彼は棚の中を確認して不安げな顔でこちらを見る。

「やっぱり無いよ?君も確認してみてよ」

ほら、と言って立ち上がった彼が私に確認するよう促した。
 先程まで彼がいた位置にしゃがんで引き戸を開けると、私が用意した箱と同じくらいの、けれど確かにそれとは違うものがそこに鎮座している。

「なに、これ…?」

何も言わない彼のほうを振り向くと、してやったりの顔でこちらを見つめている。

「……実はさ、今朝たまたまテレビ台開けちゃって、サプライズ気づいちゃったから」
「じゃあこれ今日用意したの?」

手に持った小さな箱を見せながら尋ねると、「ううん」と彼は首を横に振った。

「それは少し前から用意してた。そこに入れることにしたのは今日の朝かな」

開けてみて、と急かす彼につられてリボンを解くと、中にはベロアの箱。

「指輪…?」
「うん」
「……なんで?だって今日拳くんの誕生日だよ?」
「うん、そうなんだけどね。普段から君にはいろんなものを貰ってるから」
「プレゼントなんて私あげてないよ」
「物はね。でも貰ってるの。だからお返しがしたくて」

箱を開けると、私の誕生石が散りばめられたシンプルなデザインの指輪。貰ってばかり、してもらってばかりは私の方だと言うのに。
 涙でグズグズになった私の顔を見て、彼は愛おしそうに笑った。2人で素敵な1年にしようね。そう言って私は指輪をはめた私の頭に、ふわりと彼の手が乗った。



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