自覚して

 大学のサークルでハロウィンパーティーをするらしい。きっと後輩たちで盛り上がるだろうから、僕は行かなくてもいいかなと思っていた。しかし先日、僕の彼女も行くらしいということが判明した。
 彼女は僕よりも二つ年下で卒論の準備などもなく、彼女の友達もほとんど参加するだろうから確かに当然と言えば当然なのだが、すっかり失念していた。そして、彼女が行くのであれば、僕も行かないわけにはいかない。
 普段は年上らしく余裕のある振りをしているが、内心不安で仕方がない。大学でワンチャンを狙う男に近づかれてはいないだろうか。街中でナンパなどされてはいないだろうか。もうそれはかっこ悪いくらいに心配で。
 彼女のことは信頼している。実際、やたらと男の子と出かけている様子はない。けれど、彼女の周りの男の全員を信用できるかとなると話は違う。男女問わず友達の多い彼女のこと、彼女は友達と思っている男でも、相手もそうとは限らない。僕の知らないところで近づこうとする輩がいるかもしれないと思うと、想像するだけで虫唾が走る。
 しかし、嫉妬深い男は嫌われる。それはもちろん分かってる。それに僕としても、彼女の交友関係を狭めたいわけではない。だからこそ、あまり口出ししすぎないよう心に決めていた。

* * * * *

 しかしながら、自分の器がここまで小さいとは思わなかった。
 パーティーの席の隅っこで、ちびりちびりと酒を飲みながらため息をこぼす。仲のいい友達とお揃いのシスターの仮装をしてきた彼女は、少し離れたところで女友達とおしゃべりに夢中だ。
 恋人贔屓はあるにしても、やはり彼女は可愛くて。彼女はそれを分かっているのだろうか。屈託のない笑顔を友達に向けるその姿から目を逸らせない。
 ふと、彼女から少し離れたところからちらちらと彼女を見つめる視線に気が付いた。思わず眉間にしわが寄る。好意の一つや二つ向けられることもあるだろうは思っていたけれど、いざそれを目の前にすると面白くない。でも仕方ないよなと思いながらグラスに口をつけていると、先程まで少し離れたテーブルにいた彼女が近づいてきて隣に座った。

「乾先輩。一人で飲んでるんですか?」
「そうだね、今は」
「ねえ見てくださいよ、シスターの格好してみたんです」

可愛くないですか?と嬉しそうに尋ねる彼女。間違いなく似合っていて、そのキラキラとした笑顔も相まってなおさら可愛い。けれど、それが一層僕の心を狭くする。

「あーもう、自覚して?」

耐えきれず、縋るような声が零れる。「かわいいよ」の一言が言えなかった僕に、彼女は意外そうに目を見開いた。みっともない顔を見られたくなくて、正面から彼女の肩口に額を乗せて凭れる。

「……かわいすぎて困るよ」

零れた声は、我ながらあまりに弱々しい。彼女は今、どんな顔をしているのだろう。そろ顔を上げようと思ったところで、耳元で彼女がくすっと笑った。
 彼女から離れて顔を見ると、その表情は何だか嬉しそう。

「なんで笑ってんの」
「ふふっ。いや、意外とヤキモチ妬くんだと思って」
「……がっかりした?」
「何でがっかりするんですか」
「だって、年上なのに」

しょげたように言うと、ふわりと彼女の手が頭に乗った。そのまま、俺の傷んだ髪をとかすように滑らせる。

「むしろ安心しました」
「……安心?」
「だって先輩いつも余裕そうだから。私ばっかりヤキモチ妬いちゃって」
「妬いてたの?」
「……妬いてますよ」

そんな素振りは見たことがないのに。驚いて彼女を見ると、隠し事がばれた子供のような顔で小さく笑った。

「お互い様ですね」
「そうみたいだね」

二人で見合わせて笑いあう。

「あ、そうだ」
「どうしました?」
「ちょうどいいから一個だけお願いがあって」
「なんでしょう」
「……あの男の子にLINE聞かれても教えないで欲しい」

さっき彼女を見ていた彼を指さしながら、上目遣いでお願いする。彼女はくすりと笑って「わかりました」と答えた。まだ、大人にはなれそうにない。



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