冬に潤い
段々と空気が乾燥してくるこの季節。特段乾燥肌というわけではない私でも、お風呂上りすぐにスキンケアをしなければ頬が引きつるような感覚がするようになってきた。面倒くさがりでなんでも後回しにしたがる私にとっては、面倒なこと極まりない。湯船につかりながら、もうすでに億劫な気持ちが顔を出す。と、ガチャリと脱衣所のドアが開く音がして、拓朗が私の名前を呼んだ。お風呂中に声をかけるなんて珍しい。
「どうかした?」
「いや、今日見たいテレビあるって言うてた気がして。もうすぐ時間やない?」
「え、待って。完全に忘れてた。今何時?」
「あと5分で9時」
「やばい始まっちゃう。すぐ行くわ」
教えてくれてありがとねと言いつつ、慌てて湯船から上がる。「頑張れ」と半笑いで言い残して、拓朗はリビングへ戻って行った。幸いやることは終わっていたので、雑に体を拭いて、拓朗に怒られない程度に服を着て、大急ぎでリビングに向かう。
「おっ、早い」
「どう、間に合った?」
「ギリ間に合った」
ほら、と拓朗が画面を指さすのとほぼ同時にCMが終わる。うわ本当にギリギリだったわ、なんて言いつつ、ひとまずテレビの前に座った。
「もうちょい早く声掛けたれば良かったな」
「ううん、間に合ったから良いよ。ほんとありがと」
こうやって私が見たいテレビをすっぽかすのは珍しいことではなくて、毎度拓朗が声を掛けてくれている。最近では私もそれを期待して、見たい番組を事前に彼に教えるようになってしまった。
甘えすぎだろうかなんて思いつつ、結局甘えてしまう。
「化粧水もうつけたん?」
地べたに座る私と一緒にソファに腰掛けてテレビを見ながら、拓朗が聞いた。
「あっ、」
その言葉だけで十分伝わったのだろう。斜め後ろから盛大なため息が聞こえる。お風呂上りにすぐしなければならないのは分かっているが、今日は如何せん時間がなかった。
「CM入ったら取りに行くから」
「さっきCM終わったばっかやん」
「うっ、それはそうだけど。…でも今は無理」
テレビから目を離すことなく答えると、もう一度ため息をこぼした後、立ち上がった気配。
「いつものとこやんな?」
「え、持って来てくれんの?」
「このままやとしばらく行かなさそうやし」
「ありがとう。大好き、愛してる」
安売りすんな、などと言いつつ嬉しそうなのはその声色でバレバレだ。
それに、ふざけたように言ったけれどその言葉に嘘はない。冷たそうに見えて案外優しくて、言葉ではそっけないのに甘やかす。彼のそんなところがたまらなく好きなのだ。
戻ってきた彼の手には、化粧水と乳液とボディクリーム。はい、と言いながら化粧水と乳液をことりとテーブルに置いた。なのに、何故だかボディクリームは彼が持ったまま。
まあいいかと、テレビをチラチラ見ながらスキンケアをしていく。顔のケアが終わると、それを確認した彼がボディクリームの蓋を開けた。
「脚貸して」
そう言って私の隣に座る。大人しく脚を差し出すと、テレビ見とって良いからと言いつつ私のズボンを捲った。
言われた通りテレビを見ていると、脛にひやりと冷たいものが触れた。驚いて彼のほうを見ると、クリームを私の脚に塗ってくれている。
「え、塗ってくれるの?」
「ついでにマッサージしたるわ」
「やったね」
彼のことだから、最近足が浮腫むという話をしたのを覚えていたのだろう。恋人にマッサージされながらテレビを見るとは、なんて怠惰で幸せな時間。
「拓朗ってさ、」
「ん?」
「案外彼女のこと甘やかすよね」
「……普通やろ」
ぶっきらぼうに言いつつ顔は赤い。どうやら甘やかしている自覚はあるらしい。
テレビを見終わったらお返しでもしてあげようか。そんなことを考えながら、身を任せてみる。