素顔はどっち
クリスマス。独り身には一層寒く感じるこの季節。毎年一緒に遊んでいた友人は今年は仕事が立て込んで会えないというのに、対する私は丸一日お休み。他に誘う友人もおらず、今年のクリスマスは一人寂しく過ごすことになりそう。
そんな愚痴を、久々に会った大学の後輩にこぼしていた。まだ在学中の彼女はサークルの飲み会があるという。私も所属していたそのサークルのイベント好きは、未だに変わっていないらしい。
「あ、そうだ」
「ん?」
「先輩も来たらどうですか?卒業生が来るのも珍しくないですし」
名案を思い付いたという顔の彼女はもうその気になっていて、断るのも忍びない。それにどうせこれといった用事もないのだ。普段合わない後輩たちの顔を久々に見に行くのも悪くない。
かくして、私はその飲み会に参加することになった。
* * * * *
クリスマス当日になってお店に向かうと、すでにそれなりに人が集まっていた。見知った顔をちらほらと見かけて懐かしい気持ちに頬が緩む。
「みんな久しぶり。元気してた?」
声を掛けると、一斉にこちらに向く視線たち。私を見るなり、驚いたような声が彼らから上がる。OBOGたちの中でも私の参加は予想外だったらしい。卒業してから顔を出すのは初めてだからそれもそうか。声を掛けてくれる後輩たちと話しているうちに人も増え、時間になって幹事が乾杯の音頭を取った。
席替えは自由。みんなお酒片手にあちらこちらの席を動き回っている。レアな人間と話したいのか、私の周りにも当時の後輩たちが入れ代わり立ち代わり話をしにやってくる。
ほんの少しだけ落ち着いて来たころ、それを見計らったように見知った顔がやって来た。
「お久しぶりです、先輩」
「あら久しぶり、ノブも来てたんだ」
ぺこりと頭を下げながら隣に座った彼に、相変わらず礼儀正しいやつだなあと思う。彼とは学年的には1年しか被っていないにもかかわらず、よく懐いてくれていた。
年のわりに落ち着いていて、欠点などまるでなさそうなその後輩は、「覚えててくれたんですね」と言ってにこりと笑った。
「さすがに忘れてないよ。どんだけ薄情な人間と思ってんのよ」
「ははっ、すいません」
随分と垢抜けて変わったように見えたが、この距離感は変わっていない。そのことにどこかほっとしながら、グラスに口をつけた。
最近どう?なんて尋ねて世間話に花を咲かせお互いの近況を話し終えたころ、「あ、」と言ってノブがごそごそと鞄を探り出した。少し待っていると、目の前に差し出される小さな箱。
「はい、どうぞ」
「…なにこれ」
「クリスマスプレゼントです。ダックワーズ、好きだったでしょ?」
「好き。え、いいの?」
「もちろん」
相変わらず、腹が立つほどスマートな奴だ。先輩が来るって言聞いたから買ってきました、なんて笑う彼は、とても年下には思えない。
「ありがとね」
「いえいえ」
「でもなんか悔しくなっちゃう」
「え?」
「あんまりにスマートじゃない?本当に年下なのかときどき疑いたくなっちゃうわ」
学生のころからずっと思っていたことを言ってみる。すると、隣の彼は驚いたような顔で動きを止めた。どうかした?と尋ねようとすると、彼が口を開く。
「それ本当ですか」
「ん?」
「年下っぽく、見えてないですか」
意図の読めない質問に首をかしげながら頷くと、彼がにこりと満足げに口角を上げた。
そっかそっかと嬉しそうに呟く彼は、珍しく無邪気な子供みたい。普段見れない年下らしい面に微笑ましくなる。
「心配しなくても、ノブは大人っぽすぎるくらい大人っぽいでしょ」
「そりゃ頑張ってますから」
「頑張ってたの?」
いつも余裕綽々な後輩の貴重な一面に、ニヤニヤしながら尋ねる。けれど、まるで仕返しを企むようにニヤリとノブは口角を上げた。
「先輩の前だけですけどね」
その含んだ言い様にぶわりと頬が熱くなる。前言撤回。やっぱりこいつは微笑ましくなんかない。