一年、一輪

 いつもより早く仕事を終わらせてオフィスを出る。向かう先は、自分の家ではなく彼女の家。せっかくの記念日だから二人で過ごしたいねと言って、約束してあった。
 早く会いたくて急いてしまいそうになるが、今日は寄るところがある。休憩中に思い付いた、ちょっとしたプレゼントを買いに。
 彼女の家に着いてインターホンを押すと、待ってましたとばかりにひょこりと笑顔が覗いた。
 俺が入ると、彼女はいらっしゃいと言いながら部屋へ戻ろうとしてしまう。慌てて名前を呼んで、「ちょっと来て」と呼び戻す。
 どうしたのと不思議そうな彼女の前に、そっと一輪の薔薇を差し出した。驚いた後にくしゃりと目尻にしわを寄せて、彼女は嬉しそうにそれを受け取る。
 あなたしかいない。記念日に薔薇なんてらしくないかもしれないけれど、どうしても渡したかった。俺の一目惚れから始まった二人の関係にはピッタリだ。
「一輪挿しあったかな」
そう呟きながら鼻歌交じりに部屋へ戻って行く彼女の後姿を見つめながら、一年前とは違う関係に口角が上がった。



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