星を救う旅をする、そういった大義名分を掲げて一行は旅をし続けていた。
元は色々な目的によって集まっていたただの集団だったが、今は一致団結して敵へと向かう仲間たちとなる。
彼らにとってそれは成長であった。
だが、最近彼らの中には悩みがある。
それはメンバーが集まる前、初期の初期からいる2人によるもどかしい模様だった。


「なぁ蜜柑……デートしないか?」

「やだなぁクラウド、そういうのは好きな子に言うっていうのがテンプレでしょ?」


いつもは顔色ひとつ変えないような男が頬を赤く染めながら『デート』などという恥ずかしい言葉を口にしている、それだけで仲間たちにとっては前代未聞のことであり吹き出すのを必死に抑える出来事なのに、それに対する彼の幼馴染は全く頓珍漢なことを言うものだから、仲間の中からは腹を抱えて笑う者まで現れた。
それをキッと睨んで制すクラウド。
これは何も初めてのことではない。
何回も、行われてきたことだった。
そう、何回も同じような出来事が起こっている。
これに関して誰が笑わずにいられるだろうか。
悲しいことに、頑張って伝えた好意の1つも本気として捉えてくれないのだ。
成長のひとつもない、マテリアでさえ成長するのに、だ。
さすがクラウドの幼馴染、キャラが濃い。


「……俺は、お前と行きたいんだが。」

「やあねー、照れちゃうでしょ!」


そうは言うものの、全く照れてはいない蜜柑。
ただ嬉しそうにするだけだ。
どうせ幼馴染と遊べるんだ〜と能天気に思っていることだろう。

最初、仲間達は不審に思っていた。
あのクールなクラウドが幼馴染と名乗る相手だけを大切に扱っていたからだ。
ティファも幼馴染であるが、親しいと呼べる程交流があったわけではなかった。
蜜柑はそれに比べてクラウドと関わりが多かった、よく一緒に過ごしていただけらしいが、それにしてもあのクラウドの態度は可笑しいものだ。
あんなに人のことを気遣うなんて、天変地異の前触れか、と言い始める人までいた。
それほどまでにありえないことだったのだ。

だけど、次第に皆の心は変わっていった。
あんなにも頑張ってアプローチしているのに、蜜柑に気づく様子は全くない。
全く、だ。
全て冗談だと思って受け流している。
まだそれが本人に伝わっていないからいいだろう。
だけど、全て受け流されているとクラウドが知った時、アイツがどんな行動を起こすか分からない、そう皆の心は一致団結した。


「題して…『クラウド蜜柑くっつけよう大作戦』!」

「そのままだな。」


ユフィの言葉に冷静に返すヴィンセント。
しょーがないじゃん、それ以外に名付ける言葉がないんだよー、と言い返すユフィに同意とばかりに頷くレッド13。
ネーミングセンスない組が浮き彫りになる。
まあそれは置いといて、と全員をまとめたティファが話し出す。


「あの二人、本当にそろそろくっついてもいいと思うの!クラウドの方はなりふり構わず頑張ってるし!」

「スーツに花束は笑えましたねぇ。」

「それ本人には言っちゃダメよ。」


ケット・シーの何気ない一言に静かに諭すティファ。
あれは、クラウドだけでなく全員にとって黒歴史のようなものだ。
あれだけは、からかってはならない。

それからは、あれやこれやと皆で意見を出し合ったもののまともな意見が出てこない。
女性陣はロマンチックにして欲しいものだと主張し、男性陣は男らしくどストレートにと主張。
一見問題なさそうに見えるこのふたつの主張だが、この中身が噛み合わなかった。
美しい星空の下でというのが女性の主張だとしたら、男性はただガツンと言え!の一点張り。
ムードに欠ける!いやいや、男らしさを見せればOK!
根本的に合わなかった。
そのため、なかなか話し合いは進展しない。
少しの時間しか経ってないはずなのに、皆の顔は戦闘後より疲れ果てていた。


「てかさー、何で蜜柑は気づかないの?鈍感なの?」

「鈍感なのよ…」

「じゃあまず直球でクラウドの事を聞いてみたらいいんじゃない?」

「「「……それだ!」」」


クラウドに告らせるのに必死で蜜柑の心情まで頭が回らなかったのだ。
何気ないユフィの一言で道が開けたとばかりに顔を輝かす仲間たち。
それはまるで敵を倒す道標を手に入れた時のようだ。
しかし言っておく、この人達は星を救った仲間たちである。
それさえも疲れさせる蜜柑の恐ろしさをわかってほしい。

会議で蜜柑に聞くことになったティファは、拳をしっかりと固めて蜜柑の所へと向かった。


「ねえ蜜柑?」

「なーにー?」

「あのね…」


ティファは迷った。
鈍感な蜜柑にどうすれば伝わるのか。
そのままに伝えてしまえばクラウドの気持ちにも気づいてしまうだろうか、いやそれは何としても避けたい。
長年の想いは本人に伝えさせてあげたい。
一瞬考え込みながら、それを悟らせないようにニッコリ笑って話しかける。


「クラウドのこと、どう思ってる?」


一瞬ぽかんとした顔をした蜜柑は、そのまま花開くように笑顔になる。
これは脈アリかな?クラウドやったね!そう思ったティファは次の瞬間感じた。


「え、まさかティファって…クラウドのこと好きなの!?」


やっぱり鈍感は鈍感のままである。
言葉を間違えたか、と思ってしまった。
だけど鈍感に遠回しに言っても伝わらないのは確実。
ならばと直球に聞いたのに、どうして蜜柑は間違えてしまうのか。
思わず脱力する。
おーい、と聞く蜜柑はもうダメだ、末期だ。

それから仲間の所へ戻ったティファは作戦が失敗したことを報告した。
灰となったティファに変わってユフィやバレットも行ったのだが、結局皆ティファと同じ結果になってしまった。
そう、皆蜜柑に「クラウドが好き」だと誤解されてしまったのだ。
ユフィもバレットも、だ。
バレットについてはご愁傷様ですとしかい言いようがない。
仲間たちの悲惨な姿に普段暴走しがちなシドが困った顔をしていたのが特徴的だった。
それを知らずして、蜜柑はクラウドに近づいて言うのだ。


「クラウドモテるね〜。」

「……は?」

「んふふ、何でもない。」


もうやめてあげて。




無自覚鈍感な幼馴染




次の日仲間達から責められるクラウドがいて、
それを笑う幼馴染がいたそうな。