薔薇林檎
綺麗な花が、綺麗に散っていく。その姿を目で追って、静かに手を伸ばす。届かない。届かない。届きたくない。
きらきらとした朝露に濡れる薔薇の花。屋敷に植えても上手に育たなくて、諦めてしまったのはいつだったか。彼の立派な別荘にお邪魔をして、見にいけばいいやなどとそう、こっそり思ったのはいつだったか。
「綺麗ですね」
「ああ、俺の自慢さ」
薔薇園を褒めていると思っている貴方。その横顔はあどけないのに端整で、思わず溜息が出てしまいそうだ。けれどぐっと堪えて「ええ」なんて小さく答えを返した。
イギリスさんは薔薇園を闊歩しながらひとつひとつ、それはそれは丁寧に薔薇の説明をしてくれた。この色は品種改良の末に、この株は育てるのが難しい、かたちの好い唇が嬉しそうに言葉を紡ぐ。薔薇より貴方に見惚れています、なんて言ったら貴方は何と言うのでしょうか。
「綺麗です」
「今度は日本の庭も見せてくれよな」
「ええ、勿論」
微笑みを浮かべて頷けば、薔薇色に染まる貴方の頬。
ああ、可愛らしい。まるで林檎のよう。
ああ、愛おしい。いっそ貴方を、食べてしまいたい程に。
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