堕ちた人、縋る人、溺れる人(闇落ち)



ダークサイドに堕ちたマシューとフランシスの話。

* * *

「ほら、マチューにはこっちの方が似合う」

そんな優しく甘い声が耳元を掠めた。
考える事なんてもう忘れてしまった僕の頭は、その言葉を脳に刻み込んで笑えと命令した。これは嬉しいこと。僕という個人を見てくれている。こんなにも喜ばしい事はないんだと、騒ぎ立てる。
ああ、そうだ。これは嬉しいことで、気持ちがいいこと。
薄ぼんやりとした靄の奥で、何かが嵌まり込んだ音を聞いた気がする。

「ありがとうございます、フランシスさん」
「んー、いいんだよ。俺が自由にやってるだけだから、ね?」

甘やかすように触れる手が心地好い。
かちゃん。何か金属が落ちた。それが何だったのか、もう僕には思い出せない。
背後に回ったフランシスさんが僕の背を押す。大きな姿見に映されたその姿は、まさに彼の為に在る“マシュー”で。

「ようこそ、マチュー。俺たちは君を歓迎しよう」

誰かに必要とされる。それが、こんなにも気持ちよくて幸せなものだったなんて知らなかった。
容易く与えられた自由の翼は、体中に回る甘美な毒。その毒を肺腑一杯に吸い込んで、彼に溶かされて殺されてしまうのなら、それでもいいかもしれない。

だって、ここは僕を受け入れてくれるのだから。

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