まだ見ぬ闇(キク+トーリス)



従者となったキクと、観察するトーリスの話

* * *

「隣、いいですか」

彼の躍りを眺めていた頃。
この場に似つかわしくないーー自分も似たようなものかーー男から不意に声を掛けられた。否定も肯定もしなければシャンパングラスを煽りながら男は訊ねる。

「羨ましい?」

ゆるりと顔をあげれば、嗤った瞳にかち合った。その瞳の奥に感じるのは侮蔑か。
興味をそそらず、もう一度彼の方へと視線を滑らせた。

「あんなに綺麗なハイマン、ナイトメアには勿体無い」

ああ成る程。漸くこの男が言いたいことが解った。
私は呆れたように表情を歪めて深い溜め息を吐く。不愉快だ。

「だから?」
「あれ、意外ですね。もっと取り乱すと思ったのに」

シャンパンを飲み干した男は凭れた壁から離れ、ひらりと手を振った。
雑踏の中に消えていく。残り香は間違いない、同族のそれだ。

「勿体無い?ハッ、何を今更。私を選んでくれた神の言葉を、違うわけがないでしょう」

消えていく男へ嘲笑うよう、グラスを煽った。
視界に映る彼が誰と躍っていても、必ず自分の許へと帰ってきてくれることを知っているのだから。

ALICE+