私が料理を始めた理由(キク)
ねえ、知っていましたか。私が料理を始めた理由。貴方とふたり、宛てのない旅を始めた頃の話です。
ただ茹でて味をつけただけの料理を美味しいと言ってくれたから。貴方が幸せそうに顔を綻ばせて笑ってくれたから。だから、もっと貴方を喜ばせたくて色々と覚えたのです。
初めは、そう、懐かしいマリアリリィの――レディの作ってくれた味。
それを必死に思い出そうとして、試行錯誤を繰り返して、でも矢張りうまくいかなくて。最終的には我流の料理になって苦笑しましたね。
薄くて、失敗したと肩を落としても美味しいなんて言ってくれるから。酷く嬉しくて、泣きそうになるのをぐっと堪えて、ありがとうございますと頬を染めて笑ったんです。
貴方の一言で、私はこんなにも心動き、心乱される。
「アーティ、ごはんですよ」
「うん、今行く」
小さな私たちだけの城に漂うのは、安らぎの香り。甘い、料理の香り。
あの頃に比べ、かなり腕を上げた自信はある。
今では貴方の好き嫌いを雰囲気で察して、苦手そうなものをこっそりと混ぜたりするんですよ。知っていましたか?
「さ、冷めないうちに召し上がれ」
きっとまだ、道半ばだけれど。こうやって温かなものを求めるのは、悪くないと思うのです。
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