昼下がり(アーサー×キク)



昼過ぎの静かな空気を纏うそこは、心を癒すにはうってつけだった。カウンター席の一番奥で頬杖をつきながら店長の姿を眺め、その所作に溜息を零すこの時間は悪くない。
ちらりと壁掛け時計を見遣れば十四時過ぎ。そろそろ弟子である少年が帰ってくる頃合いだ。しかし、何となくこの場から離れることが億劫でキクはポケットから携帯端末を取り出した。

「ホンダ、ついでにアルフレッドにも連絡してくれ。まっすぐ帰って来いと」

いつの間にかこちらを視界に捉えられていたようだ。冗談交じりに高くつきますよ、などと笑って文字の羅列を打ち込む。送信先は二か所。自分の弟子と、彼の弟子。すぐに返信が来たのは彼の弟子の方で、アイス買ってから帰る!とのことだ。

「ジョーンズさんはアイスを買ってから帰るそうです」
「まっすぐ帰って来いと言ったんだがな」

そう言いながらグラスが磨かれていく。汚れひとつないそれは、まるで彼の性格のようだ。
少しして自分の弟子からも返信が来る。進路相談で少し遅れるそうだ。今日は外食の気分ですとだけ再度送信して顔を上げると、翡翠色の瞳がじっとこちらを見つめていた。

「……カークランドさん?」
「随分と楽しそうだな」
「ああ、今日は外食の気分だとギルベルト君に連絡したんですよ。イタリアンでも食べに行こ、」

その言葉は言い終わる前に途切れた。伸びてきた手がキクの顎を捕らえ、流れるように唇を塞がれる。舌を絡めるようにすり合わされても、咄嗟のことで反応すら出来ない。ちゅくちゅくと甘ったるい音が頭蓋の裏に響き、漸く解放されて酸素を求めるように激しく呼吸をすると、アーサーはぺろりと自分の唇を舐めた。

「どうしてだろうな。お前が他の男の話で喜んでいると、もやもやとする」

なんですかそれ、とは言えなかった。いつもの笑みすら満足に浮かべることが出来ず、真っ赤になった顔を手で隠すのが精一杯だった。どろどろと溶けて消えていく境界線が、まるで彼を迎え入れるように。

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